十三話 監視者
十三話 監視者
「やっぱり暴走してるじゃんか!」ヴィタは大声を上げる。
二人は訓練を終え帰路に着いていた。そこでは訓練中に暴走したカーブによってとばっちりを受けたヴィタが言い寄っていた。
「仕方ねぇだろ!魔力使いすぎたらああなっちまうんだよ!」
そう言い放つカーブに強い苛立ちを感じながらも、赤く腫れた右頬を押さえる。口の中には血の味が広がり、血の味は痛みと共に不快感を煽り立てる。
ああイライラする。
なんたって僕を殴りつけるんだ。
「お前がしっかりしたらこんな事ならなかっただろうが!」
「だからわざとじゃねぇって!!」
歪み合いながらも脚を進める二人だったが、途中大きな岩壁にぶつかった。それは行きに見た大きな岩壁だった。ザンスはこの壁を軽々と飛び越えていたが果たして僕らは超えられるだろうか。
「なぁヴィタ、どうやってこれを飛び越えるんだ?」
僕は目の前の岩壁を見上げたが、その壁はよじ登るにも取っ掛かりないほど精巧に石が積み上げられている。更に僕らにはザンスの様にこの壁を飛び越える身体能力も持ち合わせていない。
うん無理だな。
「仕方ない、遠回りして村の前門まで行くか、」
ヴィタは血の滲む頬を押さえながらめんどくさげに言った。
「いいやヴィタ、お前は頭が硬いな。ここは柔軟な思考を元にこの岩壁を乗り越えるんだ。」とカーブはそう豪語する。
「お前、村の前門まで遠回りしたく無いだけだろ。」
まぁ、やるとしたら壁のそばにある木の上から飛び移るしかなさそうだな。飛び移れればそれなりの高さまでいけそうだし、そこから自力でよじ登るか。
僕は両腕を体を変態させ、毛の逆立つ狼の腕へと変えた。「何だか久しぶりだなぁ」とヴィタは自分の腕を見てそう感じるのであった。
ヴィタは青年期を迎え、人化の状態の習得してからは自分の狼らしさを忘れてしまっていた。
するとカーブも悩んだ末、何か閃いた様だ。
「属性だ!俺の雷属性の身体強化で飛び越える!」そういう時カーブは早速体に雷を纏い始めた。
言葉を聞いたヴィタは大きくため息をついた。
「お前また暴走するぞ?僕に面倒をかけるなよ。」
「じゃあどうするんだよ。」
捻り出した意見を否定され、カーブはムッとした顔で僕に詰め寄った。
「木から飛び移るんだよ。そしたら何とか超えらるだろ。」
ヴィタはそばに生える木を指差した。
しかしカーブは不満げな顔で僕を睨む。
「お前らまた喧嘩してんのか笑笑」
不意に頭上で声が聞こえた。ヴィタとカーブは声の聞こえた岩壁の上を見上げる。するとそこにはダイスの姿があった。
ダイスは僕らを見るとゲラゲラと笑い転げているようだ。
「ダイス、お前はそこで何してんだよ。」
笑い転げるダイスに僕は尋ねる。
「俺らはヴィタ達を見に来たんだよ。」
俺ら?
隠れたところからダイスの他にも二人の姿が映り込む。そこにいたのはルーナとキリアンだった。
「なぁキリアン、アイツらをこの壁の上まで運んでくれよ。」
「なっ!何で俺がやらないといけないんだよ。」
ダイスの問いかけにキリアンは不満げな顔で言い放つ。
「お前がヴィタ達を見に行こうって言い出したんだろうが。」
「それとこれとは別だろう!」
「それに風属性なんだからアイツらを運ぶぐらい簡単な事だろう?」嫌がるキリアンにダイスは笑顔で詰め寄る。するとその笑顔に負けてかキリアンは渋々、僕らに協力することを承諾した。
「おーい何とか話はまとまったぞ!待ってろすぐに上げてやるからなぁー!」
するとダイスの声と共に僕の足に絡みつくように風がなびき始めた。そして次第に大きくなる風は僕を空へ浮かび上がらせ、風は小さな竜巻と成って僕の体を岩壁の上へと押し上げていった。その後はものの数秒で岩壁の上に立った僕を迎えたのはダイスとルーナだった、その後ろではキリアンが僕を睨みつけていた。
「全く、アンタ達っていつも喧嘩してるわね。」
再開して早々、呆れ顔をしたルーナがそう呟いた。
「それはお前もだろルーナ。」ルーナの呆れ口調に腹が立ったのか言い返すカーブ。
「なっ!それはダイスがっ!」
ルーナとカーブが喧嘩を始める中、僕は改めてダイス達がなぜここにいるのか尋ねた。
「で、何でお前らここに来たんだ?」
「ああ、それはキリアンが、」
ダイスを遮る様にキリアンが話し出す。
「俺達はお前らが怪しい行動をして無いか監視しに来たんだよ。」
僕とカーブの監視?
「何だよキリアンそんなこと聞いてないぞ?」
キリアンは事情を知らないダイスを冷たく突き放す。
「で?お前らは此処でいったいここで何をしてたんだ?」
キリアンは同じ質問を繰り返す。
「何してたって言われてもな、ただの訓練だよ。」
質問に答えたにもかかわらずキリアンはまだ僕へ疑いの目を向ける。
しかしいきなり疑われるともなると人はいい気分はしないものだ。僕の隣にいるカーブが怒りを露わにする。
「お前は何が言いたいんだ?クソチビ!!」
「なっ!誰がクソチビだ!」
カーブはキリアンに近づく。
「「てめぇは一体何が言いたいんだ」って聞いてんだよ!」カーブは人差し指でグイグイとキリアンの体を押し除ける。
「い、いやおいらはお前らが怪しい行動をしないか監視を言い渡されてるだけだっ!」
ん?おいら?何だが混乱してきたぞ?それにまた監視って言ったか?
キリアンの一人称オイラ発言に加え、混乱するヴィタだったが、監視という言葉で我に帰った。
「あぁ?!」
カーブは胸ぐらを掴みキリアンに詰め寄る。
「ちょっ待てカーブ。なんとなくだけど事情が分かった。こっちに来い!」僕はカーブのキリアンいじめを静止させ、カーブを連れてその場を離れる。
「なんなんだよ良い所なのに、」
「きっとキリアンに監視を頼んだのはきっと村のジジイどもだよ。」
「何だってそんなことされないといけねぇんだ!」
「だからザンスがさっき言ってたろ?ジジイどもが僕らを危険視してるって、、」
「何だよ!そんなことならあのクソチビに吐かせても良いじゃねぇか!!」
カーブは牙を剥き出し、離れたキリアンに威嚇する。
「おいっ!バカやめろ!」
僕はキリアンを睨みつけるカーブの頭をぶつ。
「なんだてめぇは!殺されてぇのか!!」カーブは僕に般若の顔で睨みつける。
「だからカーブ落ち着けって!!」
「今の話通りならキリアンが村のお偉いさんに僕らの近況を話すわけだろ?」
「それが何だよ!ころぉすぞ!黒胡麻!!」カーブは僕の頭をガシガシと叩く。
「キリアン次第なんだよ、、」
「なに言ってんだ!」
「だから!僕らの立場はアイツの報告内容次第で良くも悪くも変わるんだよ。」
「話が見えねぇな。」
なんでわからない!!
「とにかく!アイツが事の報告を終えるまではお前も僕も大人しくしてだな、キリアンとの友好な関係を、、」
ガキッ!!
何かが砕ける音がした。
「築くべき、、なんだ、、」
「ん?ヴィタ、なんか言ったか?」
ヴィタは悪い予感を感じながらも恐る恐る振り返る。するとそこには殴り飛ばされたキリアンの姿があった。
「おいおいっ!何してんだよ!!」
キリアンの元へ駆け寄るとそこには意識なく伸びているキリアンいた。
「大丈夫?キリアン!」キリアンにルーナが駆け寄る。
「これ大丈夫じゃ無いじゃ無いよ。ほら顎砕けてるよ。」
「カーブ、あなたやり過ぎよ!!限度を知りなさい!」ルーナはカーブに怒鳴りつける。
「そうだよカーブ、これは良くない。」
カーブもやり過ぎたのか、その顔からは反省の色が感じられる。
ダイスとルーナがカーブを叱る中、ヴィタは慌てていた。
カーブの馬鹿野郎!いったいどうするんだよ。キリアンがこのことを報告でもしたら僕はどうなるんだよ!!!
ヴィタの手には汗が滲む。
「とりあえずキリアンを治療しないと。」
ヴィタは冷静になり、キリアンを抱える。
「そうだな、早くローバの所に運ぼう。」
「ルーナ残ってそいつに限度というものを教えてあげてよ。」
「ええそうね。わかったわ。任せて。」
ルーナとカーブをそこに残し、僕とダイスはキリアンを抱えて村唯一の診療所へと運ぶ。
そういえばあれ以来あそこには行ってなかったな。
「どうしたヴィタ?」
「いいや何でも無い、それより早くコイツを診療所へと運ぼう。」
「そうだね。」
その後、僕とダイスは村の中を駆け抜け、診療所へと飛び込んだ。
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