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他人の1958

作者: 白築忍
掲載日:2022/09/04

西暦1958年   

イタリア帝国 シチリア島 「A.ルドルフ」ロケット発射基地




凄まじい噴煙と共に、巨大な物体が空へ立ち昇る。

遙かなる空を目指すその物体を見守るのは多数のドイツ人であった。

イタリア本土をブーツに例えるならば、蹴られた小石とでもよべそうな地......シチリア島は、イタリア帝国の豪語する「我らが海」の中心にある島である。

そこに作られた発射基地は表向きドイツ・イタリア共同運用、とされていたが実際にはドイツ人専用の施設といっても過言ではない。


この実態については、かつての大戦で民主主義を奉ずる国家群が欧州から締め出された後、欧州全土に渡り覇権を確立したドイツにとって、イタリアとはどういう国であるか、というもの顕著を示す一端である。


「この度、発射されましたロケットは、我らが大ドイツ国のロケット技術が他国より遥かに進んでいるという事を示すものであると同時に、偉大なる総統閣下の宇宙に対するーーー」

                     

            大ドイツ国 国家宣伝省 公式発表


「この発射により、大ドイツ国は欧州全土に真実の放送を届けられるーーー (中略) この衛星は大ドイツ国を内部から崩壊させようとする諸外国の陰謀を打ち砕く決定的な手段になるであろうーーー」


            国家宣伝相 1958年、ベルリンにて




西暦1958年 

日本帝国 室戸岬沖




数多くの洋上艦を引き連れ、水上を巨大な空母が進む。

同航している戦闘艦の中で最も目立つのは、日本帝国海軍戦艦「大和」である。

かつての大戦では世界最大・最強の戦艦とされ、同型艦の「武蔵」と共に帝国海軍の多大なる期待を受け戦場に投入された。

しかし、戦時中その戦艦の存在に最も感謝したのは帝国陸軍だった。

戦争中、ハワイ・オアフ島に対し行われた強襲上陸において、陸戦隊が僅か2日で壊滅した事を受け、最前線に投入されたのは陸軍である。

敵軍の反攻を受け、海に追い落とされようとしている彼らを救ったのは「大和」と「武蔵」であった。

彼女たちは戦争中、遂に敵戦艦に向けて放たれることのなかった46センチ砲の破壊力をこの場で遺憾なく発揮し、陸軍部隊の危機を救ったのである。

この際、「武蔵」は艦砲射撃中に敵機の空襲を受け沈没している。強力な空母戦力を持つ日本帝国でも、本土から遠く離れたハワイ島において地上支援と制空を同時進行で行うことは(開戦時の奇襲攻撃で敵空母3隻の撃沈を成したとはいえ)不可能だったのである。

彼女の喪失をもって、帝国海軍の方針は空母重視に大きく傾いた。


「皆様もご承知でしょうが、あらためて申し上げます。今回就役した世界初の原子力空母「鳳翔」は原子力時代における帝国の技術力を示すとともに、帝国海軍は更に強大な戦力投射能力を取得し、もはや世界中に征けぬ場所は無い、と世界に知らしめたのであります。」


             日本帝国 国営放送


「彼女は東亜の守護者として、また帝国海軍の象徴として、半世紀は太平洋に君臨するだろう」


             非公式 海軍将校



西暦1958年

アメリカ合衆国 ホワイトサンズ・試験場




目も眩む閃光が発生した。遅れて衝撃と音がやってくる。合衆国はこの地で人工の太陽を作り出したのである。

もっとも、このような試みはヨーロッパ・ロシアや南太平洋のどこかでも行われており、光景だけみればそれらと大した変わりはない。

問題は使用された兵器である。

使用された兵器、W34は合衆国の榴弾砲としてもっともメジャーな155ミリ砲からの発射を可能にした核砲弾である。先行する406ミリ核砲弾「W23」や280ミリ核砲弾「W19」に次ぐ、戦術的使用を目的とした核兵器である。

この種の兵器は有事、艦船や砲兵によって運用される予定である。

このような兵器は政治的な危険を引き起こしかねないものであるが、合衆国はそのリスクを背負ってまで配備を進めている。

それは敵国への示威であると同時に未だに海を挟んだ二つの「帝国」に対する擦り寄りをやめない中南米のどこかの国の指導者に対するメッセージである。


「自由世界(注.合衆国のいうところで両米。その定義を中南米にまで広げるのはかなりの無理があるが)の裏切り者に対しての先制的な戦術核兵器使用すら【外交】の手札にある。自由世界を崩壊させようとする独裁者とその一味は地獄まで案内してやろう。」


             非公式 政府上層部


「このような兵器は核による全面戦争を招きかねない危険なものでありーーー (中略) 同時に核兵器そのものの廃止を国際社会に訴えるべきである。」


             全米核兵器廃止委員会 公式声明



他人の1958

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