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第5話 抱き合って寝よう

 俺も風呂を使わせて貰った。

 正直、さっきまで小桜が入っていたと思うと……色んな意味でやばかった。具体的にいえば、まず、小桜が裸でいたという事実。


 次に女もののシャンプーやコンディショナーがあって、更にドキドキでした。更に更に、浴槽。そこには小桜が入っていたんだから、なんだかイケナイ気分になった。


 おかげで風呂での記憶はほとんどない。



「はぁ……」

「どうだった? お風呂」

「き、気持ち良かったよ。それより、もう寝ようぜ。明日は役所に行かなきゃだし」


「そうだね、そうしよう」



 部屋に案内され、俺はびっくした。

 折り畳み式のベッドがひとつ(・・・)あるだけだったからだ。って、まさか……ここで二人で寝るつもりじゃないだろうな。



「お、おい、小桜」

「一緒に寝ようっか……」

「い、一緒に!?」


「だ、だって明日にはもう正式に夫婦だし、いいんじゃない?」


「と言ってもな」

「お風呂を一緒にするよりは、まだいけるでしょ」


「だ、だが」


「もぉ、天満くんの意気地なし! そんなに、わたしって魅力ない!?」


 微妙に泣かれて、俺は困惑する。まさか小桜が気にしていたとは。でも、確かに風呂も断ったし……女の子に恥をかかせすぎたかもしれない。俺としたことが、小桜の気持ちをちっとも分かってやれてなかった。


 そうだ、俺と小桜はもう夫婦といっても過言ではない。なんなら、たった今、日付も変わったところ。


 なら、少しくらい勇気を出してもいいんじゃないか?


 なあ、そうだろう……俺よ。


 今目の前には『大人の階段』があった。それを登るか――登らないか。今の俺にはその選択肢があった。


 でも、今の小桜は俺と一緒がいいと言ってくれている。


 なら、ならば俺は。



「俺が悪かった。そうだよな、小桜は俺の奥さんだもんな」

「そ、そうだよ……って、奥さん!?」



 おいおい、意気地なしとか言っておいて、それか。顔が真っ赤じゃないか。俺だって恥ずかしいのに。



「それが事実だ。さあ、寝るぞ。今すぐ寝るぞ」



 俺は、小桜の方に手を置いて誘導した。

 びくっと肩を震わす小桜は、たぶん、すっげードキドキしている。俺もだけど。



「……て、天満くん。これ……ちょっとヤバいね」

「そ、そうだな。俺、やっぱり床で寝ようか?」

「だめだよ、風邪引いちゃうでしょ。ほ、ほら」



 先に小桜がベッドへ寝転ぶ。

 俺も続こうとするが、足が動かない。

 くそう、足のヤツ……ガクガク、ブルブル震えてやがるぜ。俺の足、どうなっちまったんだ。まるで悪い魔法使いから呪いを掛けられた気分だ。


 いや、これは言い訳だな。


 俺は……階段を上る。



 一段一段、確実に。



「小桜、お邪魔するぞ」


「……う、うん。……うわ、こ、こんなに近いの」

「顔が近い……」


 キスできる距離だぞ、これは。

 お互いの心音が聞こえそうなほどドキドキする。こんな可愛い子と一緒に寝れるとか、夢のようだな。しかも、小桜の家でな。



「せ、せめて背中合わせにしない……?」

「いや、だめだ。抱き合うぞ」

「だ、だき!?」

「ああ、少しは小桜との距離感を詰めないと、校長に関係を疑われるかもだろ。なぁに、別に裸で抱き合うわけじゃない」


「そうだね、今日の帰りも校長先生はずっと、わたしたちを監視していたもんね。うん、分かった。天満くん、わ……わたしを抱いて」



 今のセリフ、やばいって。

 小桜が『抱いて』とか……破壊力抜群すぎだろッ。思わず理性が吹っ飛びそうになったけど、なんとか押さえつけた。ええい、俺の中の可能性の獣めぇ、落ち着け! 今じゃないんだ。今では。



 俺は勇気を振り絞り、小桜を抱き寄せた。華奢な体を受け止め、抱きしめた。



「……小桜、細すぎだろ」

「ふ、普通だよぉ。ていうか、天満くんは大きいね」


「え? まじ?」


 自身の息子に視線を落とすと、小桜は耳まで真っ赤にした。


「ち、違うし! そっちじゃないし! 天満くんの体が大きいってこと」

「あ、ああ! 悪い、悪い。それにしても、小桜は華奢だけど抱き心地抜群だな。意外とムチムチしているんだ」


「分からないよ、そんなの。でも、天満くんも温かい」



 お互いに“ぎゅ”と抱き合い、心地よくなっていた。ひと肌っていいものだな。なんだか、ぬくぬくしてきた。あぁ、眠い。



「小桜、悪い……一足先に寝る」

「ずるいっ。わたしはドキドキして寝れないのに……もぉ! もぉ!」



 そんなに、ぎゅうぎゅうされると――俺は気づけば寝落ちしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話と合わせて、遙は2回お風呂に入ったということでしょうか? 私の読解力がないだけでしたらすみません…
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