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当たり前のことってないんだよ


 私は幸せな方だと思っていた。高校時代から付き合っていた大好きな相手と結婚して、したかった仕事にもつけて、結婚後もその仕事を続けられて、相手家族とも反対もなく仲良く付き合えて、こちらの家族とも仲良く付き合えている。世間の夫婦の中では恵まれた幸せな夫婦だと思っていた。

 そんなありもしない自身が崩れたのは結婚して2年目の冬に授かった子宝が産まれた3年目の夏。別に妊娠期間中に浮気をしていたとか、出産後に顔見に来なかったとか、托卵を疑われたなんかじゃない。別に夫婦関係が終わるような問題ではないと思う。ただ、私は幸せな方だと思っていたその自信がただの慢心であると、他の夫婦と変わらない日本的な家庭であると実感した。



 産後の体調もよく、順調に退院し、家に我が子と戻ったのは実に1ヶ月ぶりであった。産休をとっていたこともあり予定日の一週間前から産婦人科に入院していた私は男一人で住んでいた小さなアパートの一室がどれ程の魔境になっているか戦々恐々として扉をくぐった。入院する前からそれなりにゴミの目立っていた我が家は思いの外片付いていた。不思議に思い聞くと、


「流石に新生児をゴミ屋敷で育てるわけにもいかないだろうからうちのおふくろに少し手伝ってもらった、ゴミとかはあらかた捨ててくれたけど、『家の掃除くらいできるようになってないと夫婦で子育てなんてできないわよ』って言われて、片付けとか掃除は俺一人でしたから行き届いてないとこもあるかも」


 実は私達は事前に子育ては夫婦二人でするものなのだから家事や育児は分担して私は産休が明けたら仕事に復帰しそれと入れ替わるように育休を夫が取る、という話をしていた。夫の会社は女性が社長の会社で男の育休に理解があったようで難なく申請が通ったそうだ。なので我が子と二人で格闘するのはあと3ヶ月ほど。

 別にその後仕事に復帰したからと言って全く家事も育児もしないというわけではない。帰ってきたら子どもの相手はするし、お風呂も入れる。夜泣きだって交代に起きる。ただ仕事している方は少なめに。お互いに協力して二人の子どもを育てよう。そんなことを話していた。

 できると信じていた。あんなに話し合い、あんなに理解し合えたと思っていたのに、結局育児は女の仕事のようだった。



 それはある日のこと。私もあと数日で産休が明け仕事に復帰するかという日、普段なら気にならないであろうその言葉が妙に耳に残った、


「なぁ、そろそろお前も仕事復帰するんだし、俺もなんか()()()()()?」

「…う〜ん、じゃあこれからはいっぱい作ることになる料理でもしてみる?一応離乳食とかは湯煎のをメインで時間があれば作ろうとは思ってるけどそっちも覚えてみる?」

「料理は手伝うけど離乳食は無理だろ、子どもに食わすのなんか怖くて作れねーよ」


 何気ないいつもの一言、手伝おうか、正直深い意味などないしいつもの会話の一つ。だけどこの日はなぜか気になった。

 別に腹が立ったわけでもないしそれで怒ったわけでもないけど小さくしこりのように不快な感情だけが残った。


 お互いの育休も明けて託児所に預けながらの仕事にもなれたある日、私のお迎え担当の日にこちらのミスで仕事が遅れた。取引先への謝罪や方々への連絡等でお迎えに行けるような状態ではなかった私は夫へと連絡しお迎えに行ってもらえないかと尋ねた。


「あ〜、今日は前も言ってたと思うけど取引先との接待でさ、俺がメインで話進めてるからちょうど難しいかも知んない、うちのおふくろに頼んでみるわ」


 本当になんともない会話、夫に落ち度があったわけでも私の心が狭いわけでもなく、ただ、ちょっとしたはずみ。そういう日だっただけの話。


「わかった、あのさ、私達しばらく別々に住まない?もしくは別れよう」


「は?何いってんのお前、まだ子ども産まれたばっかでそんな冗談きついって」


 あとから思うとどうかしていたんだと思う、それでもこの時はもうこの人と添い遂げていく自信というものは欠片も残っていなかった。

 その後は、話を聞いた義母の仲介もあり夫も私の主張を理解してくれ1ヶ月の別居をした。その間にお互いに甘えていた部分を実感しより夫婦になったように感じる。

 当たり前のように女が育児、男が仕事。女は育児を優先するのが当たり前。男は仕事を優先するのが当たり前。

 今の時代そんな考えは古いと言われ男でも育児をする意識は出てきているが所詮お手伝い。男の仕事は外にある、だから家のことは片手間の手伝い。

 そんな当たり前のことはないんです。

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