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2.

 バチンという音が、診療所内に鳴り響く。

 まさかの不意打ちに、面食らっている様子のジャレット様。

 彼は口をパクパクさせていたが、やがてその顔が赤くなった。


「き、貴様! この私に手を上げたな! ふざけやがって! 侯爵令息である私にこんなことをして、ただで済むと……」


 怒鳴り散らしていたジャレット様は突然その場に倒れ、眠りについた。


「ふぅ……」


 私は大きく息を吐く。

 診療所に勤める者には、ある権限がる。

 それは、ほかの患者様の体調に支障をきたす恐れのある行いをしている者を、強制的に立ち退かせる、あるいは拘束する権限だ。


 それは、侯爵令息であろうと例外ではない、と思う……。

 あとで理不尽な仕打ちを受ける可能性もある。

 でも、仕方がない。

 あのままではジャレット様は暴れだして、周りに暴力を振るいそうなほどだったからだ。

 あの状況では、権力を行使するしかなかった。


 診療所は静寂に包まれていたが、やがて次々と拍手が聞こえてきた。


「ありがとうございます。助かりました」


 同僚やほかの患者様が、私にお礼を言った。

 私は微笑んでそれに応えた。


「よく眠っているわね」


 私は、床に倒れて眠っているジャレット様を見下ろした。


 治癒の力には、様々な力がある。

 たとえば、リラックスさせるための力を過剰に使えば、相手を強制的に眠らせることだってできる。

 リラックスさせるためには、相手の頬に触れる必要があるのだけれど、一瞬でも触れれば力を使うことができるのだ。


 だから、私はジャレット様にビンタをした。

 決して、横暴な態度をとる彼にイラついたからからではない。

 鬱憤を晴らそうなどとは、全然考えていなかった。

 いい気味だなんて、これっぽっちも思ってなどいない。

 勘違いされたらいけないので、そこは強調しておこう。

 

 私は必要に迫られたから、ビンタしたに過ぎない。

 あくまでも仕事だ。

 私は責任を果たしたに過ぎない。

 だって、ゆっくり触れようとしたら、避けられるかもしれないし……。


「あぁ、スッキリした」


 思わず本音が出てしまったが、幸い今は誰も近くにいない。

 と、思っていたのだけれど……。


「君が、これをやったのかい?」


 びっくりして、私はその声が聞こえた方向に振り向いた。

 そこに立っていたのは、ジャレット侯爵令息様のお兄様であられる、カーティス様だった。


 床に倒れているジャレット様。

 それを見下ろし、「ああ、スッキリした」と呟く私。

 そして、その状況を目撃したカーティス様……。


 あれ?

 もしかして……、私の人生、終わった?

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