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彼女が義妹になりまして

 退院の日、父さんと百愛さんと百愛さんの母が来た。

 荷物をまとめて車に載せる。


「天地人。この後、四人でメシでもどうだ?」


 父さんの申し出に俺も百愛さんも否定しなかった。百愛さんの母は最初から知ってたみたいで、俺に何でも食べていいからね、と言ってくれる。まあ、肉だよな。

 と言ってもランチ営業の焼肉屋が近くに無くて、国道沿いのファミレスに行くことになった。


 父さんが運転する車に乗り、国道を走る。兆野母娘の車が、サイドミラーに映っていた。


「父さん、急にメシなんて珍しいね」


「ああ。少し話があるからな」


「ふーん」


 まあ、交通事故だし、色々と話すこともあるんだろうな。

 でも、その疑問はファミレスに着いて、ボックスシートに座る時に怪しくなった。父さんは俺と百愛さんを同じシートに座らせたからだ。


 なんでこの席順なんだ?


 よく分からないまま、俺はハンバーグを食べた。とんでもなく美味かった。一ヶ月も気を失っていると、どんなものも何倍にも感じられるのかもしれない。


「ごちそうさま。美味かった」


 隣の百愛さんは小さなサンドイッチを、小さくかじり、小動物みたいにもぐもぐと食べていた。かわいい。ちゃんと生きてるって実感があった。これが俺の彼女だ。

 そうしてご飯を全員が食べ終わった時、父さんが咳払いをした。


「天地人、百愛さん、よく聞いてくれ。僕と三菜恵さなえさんは結婚しようと思ってるんだ」


 は?


「僕と三菜恵さんは元々付き合いがあって、たまたま二人が同じ事故に遭って気づいたんだ。父さんたちは、もっと子どもたちを見守るべきだったんだよ」


 説明を続けられても頭に入ってこなかった。

 俺は隣の百愛さんと顔を見合わせる。百愛さんも目をぱちくりとさせて、今の状況に戸惑っていた。だから、却って俺は冷静さを取り戻す。


「えっと。待って。父さんと、その人は好き同士ってことでいいのか?」


 俺はたまらずそう聞いた。

 父さんは傍らの女性に目配せする。


「ああ、その通りだ」


「そうですね」


 二人は肩を寄せ合った。ああ、この空気。俺と百愛さんが昨日までしてた事に似ている。だけどそれとはまた違うようにも感じた。


「じゃあ、父さん。俺の名前を言ってくれよ」


「天地人だが?」


「由来は?」


 父さんはフッと笑った。


「天の時、地の利に叶い、人の和ともに整いたる大将というは、和漢両朝上古にだも聞こえず。いわんや、末代なお有るべしとも覚えず。もっとも、この三事整うにおいては、弓矢も起こるべからず、敵対する者もなし。――すなわち、義と愛を志す者だ」


 さんざん聞かされた俺の名前の由来だ。天運と流れと支える人の三つを持つ理想的な人物になれ、という意味がある。義と愛はそれを得るために必要なんだという。


「それが父さんの義と愛なんだな」


「ああ」


 俺は父さんの自身に満ちた返事にもう何も返せない。


「わかった。俺は構わないよ。でも、百愛さんは?」


「わたしも大丈夫。お母さんに好きな人がいること、知ってたから。でも、まさか天地人くんのお父さんだとは思わなかったけど」


 それはそうだ。

 父さんと百愛さんの母、えっと三菜恵さんだっけ? この二人が、ふぅ、と長く息を吐いた。きっと二人も相当の覚悟で俺たちに告げたんだろう。


「ようし、天地人。まだ食いたいものないか?」


「いやもういいよ、父さん」


 三菜恵さんがくすっと笑って、温かい雰囲気が戻ってきた。


「それでな、誕生日は天地人の方が先だから、二人は兄妹ってことになるからな」


 デザートを頼む流れの中、父さんが雑に俺たちの関係について話した。


「あ」「あ」


 俺と百愛さん、付き合ってるってこと、まだ二人に言ってなかった。


 ということは……、百愛さんは俺の恋人なのに、妹になるってことなのか!?

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