散策 1
今日は、3話ほど投稿する予定です!
翌日わたしは、クレイとの集合時間よりも少し早めに広場へと向かっていた。わたしの用事に付き合ってもらうのだから、待たせるわけにはいかない。だが、目的の広場が見えた時、そこにはすでにクレイの姿があった。
「お待たせしてすみません!」
申し訳ないと思いながら急いで駆け寄ると、壁にもたれかかっていたクレイがこちらを見た。かっちりした服装のイメージだったのだが、休みだからか、わたしに合わせてくれたのか、ラフな服装だ。
「僕が早く来てしまっただけですよ」
行きましょうか、とクレイから声をかけられ、わたしたちは自然と並んで歩き出した。
「探している方の特徴を教えていただいてもいいですか?」
「クレイ様と同じ色の瞳で、羨ましいくらい綺麗な銀髪です」
クレイがまとっている香りや雰囲気まで、グレンそっくりなのだが、なんとなく恥ずかしい気がして言いづらい。
「顔立ちも、クレイ様によく似てるんですよ。鼻がシュッてしてて、色白で、切れ長の目が特にかっこいいんですよ。それが、笑ったときに、ちょっとだけ目元が柔らかくなるんです」
「……嬉しいことを言ってくれますね」
ほんの少し照れた表情をして、顔を赤くするクレイの言葉に、わたしははっとした。たしかに、よく似ていると言ったのだから、これでは遠回しにクレイを褒めていることになるのではないか。
「あ、あの、決してそういうわけでは…。いえ、待って、えーと、クレイ様もかっこいいですよ?」
「えぇ。意味はちゃんとわかっていますよ」
否定するのも肯定するのもおかしな感じになってしまい、慌てふためいたわたしを横目に、クレイはすぐに、いつもの表情に戻っていた。照れた表情なんてそう見られるものではないので、もう少ししっかり見ておけばよかった、なんて、気まずい空気を作りそうになった張本人が言うべきではないことくらい分かっている。
「………その、様っていうの、やめませんか?街の中では悪目立ちします」
「それもそうですね」
話題を変えられそうな流れに全力で乗っからせてもらい、お互いに、クレイさん、メイベル、と呼び合うことにした。さらに話していくうちに、グレンとクレイは同い年だということが分かった。
「偶然ですね」
そう、偶然なのだ。もし年齢が違ったなら、別人だと言い聞かせる理由になったのに、なんて考えが頭に浮かんでしまう。ちなみに、クレイの方が年上だし、敬語はなくていいと伝えたが
「これはクセのようなものなので…」
と言われてしまった。あくまでも丁寧な口調を崩すつもりはないらしい。その後も、他愛もない話をしながら、視線をあちこちに動かす。
「7年も経っているのでしょう?探し人の見た目がガラリと変わっているかもしれませんね」
「その可能性も、ないとは言えません」
それでも見つけられる自信がある、とまでは言えないのが、つらいところだ。実際に、人違いをしてしまった人物が、わたしの隣を歩いているのだから。
「本当は、グレンに会いたいだけなんです。前に、待つなんて言ってましたけど、もう待つどころか探し回ってますし」
クレイが黙ったまま聞いてくれているのをいいことに、わたしはそのまま話し続ける。
「生きていてくれたら、それでいいんです。もちろん、幸せに過ごしてくれていたら、なおさらいいですけどね」
クレイといると、誰にも話していなかった明かしていなかった胸の内が、素直にポロポロと出てしまう。
「まぁ、グレンはこんなの、迷惑だって思ってるかもしれませんけど…」
「迷惑だなんて思ってませんよ」
「え?」
「……………僕がそう思う、というだけですけどね」
わたしを傷つけないように、考えて答えてくれたのだろう。クレイには気を使わせてばかりだ。
「すみません、こんな話して。つまらないですよね」
「いえ。僕でよければ、いつでも話してください」
「ありがとうございます」
優しく細められたクレイの目元は、先程語ったグレイの目元と瓜二つだった。
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