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最終話

遅くなってしまい申し訳ありません。

これにて最終話でございます!

 わたしは、別荘で過ごしていた。昔から親しくしていた数人の使用人が、ついていくと言ってくれたので、その言葉に甘えている。


 ジャックたちには、お礼の手紙を出してある。とにかくお世話になったと思う人には書きまくったので、お礼状のプロになった気分だ。




 グレンに、聞かれていた。


 わたしの想いが、本人にすべて筒抜けだったのだ。恥ずかしいにもほどがある。


 このわたしの想いが、グレンにとって、すべて重荷だったら?わたしだけが、馬鹿みたいに覚えていて、忘れることができていないのだとしたら?本当は嫌だと思っていて、離れてしまったら?


 それに、恋人はいないと言っていたけれど、すごく綺麗な人といるところを見てしまった。もしグレンの想い人なら、わたしはただの邪魔者だ。身を引いて、このまま消えてしまいたい。


 きっと、グレンのことを困らせてしまった。せっかく彼が積み上げてきたであろう居場所を、壊してしまうようなことをしたいわけじゃない。


 生きていてくれたら、それだけでいいだなんて、綺麗事だったのだと、身をもって知ることになるとは。


 どんなに頑張っても、心にぽっかりと空いてしまった穴は、どうにもならなかった。



 * * * * *



 引きこもってばかりでも仕方がないと、庭を散歩することにした。別荘であるため、決して広い庭ではないのだが、きちんと手入れされているおかげで、色とりどりの花が咲き誇っている。暗く沈んでいた気分も、ほんの少しだけ明るくなった気がした。


「お客様がいらっしゃいましたよ、メイベルお嬢様」


 複数の足音と、メイド長の声が聞こえる。振り返ったその先には、以前まで、あんなに会いたいと焦がれていたのに、いま1番会いたくない人物が立っていた。


 光り輝く銀髪、エメラルドグリーンの瞳。


 グレンだった。


「ではごゆっくり」


 メイド長の足音が遠ざかる。おそらく、メイド長には、何もかもがバレているのだろう。わたしは、グレンに背中を向けた。答えを聞くのが、怖いから。


「どうして、ここに?」


「無理を言って、妹から居場所を聞き出したんだ」


 聞こえてきたのは、クレイの声だった。やはり、クレイとグレンは同一人物だったのだ。


「怪我、痕にはなってないな。治ってよかった」


 純粋に心配してくれていたのだろう。その優しさが、いまは痛い。


「俺の話を、聞いてほしい」


 わたしは小さく頷いた。


「留学先に向かう途中、誰かが意図的に襲撃してきたことは、その場で察した。どうにか逃げ出して、友人だったジャックに保護してもらった。そこから、名前を偽り、養子縁組をして、クレイ・エルダーになった。変装が得意な知り合いに、髪の色も変えてもらったんだ」


「ジャック殿下やルイスさんたちも、知ってたんだ」


 知らなかったのは、わたしだけのようだ。


「あぁ」


「じゃあ、あの綺麗な人も知ってたのかな…」


「…誰のことだ?」


 ただの呟きだったのに、グレンに聞こえてしまったらしい。


「パーティーで一緒にいたでしょ?王城でも夜にこっそり会ってたし…」


 あの日、こっそり見ていたことがバレてしまったが、もうそんなこと気にしない。


「………たぶん、さっき知り合いだって言った、変装が得意な情報屋だ」


 変装が得意な情報屋は、わたしも1人だけ知っている。


「まさか…、テオ?」


「なんで知ってるんだ?」


「彼から情報をもらってたのよ」


「…そうだったのか」


 グレンの驚いた声が聞こえた。わたしだって、まさか自分が嫉妬していた相手が、テオだなんて思わなかったのだから、これでおあいこだ。



「ナイダ国でベルに会った時は、本当に驚いた。気づかれるなんて思ってなかったからな」


 わたしは、グレンに背を向けて、俯いたまま話を聞いていた。彼もこちらに近づいてくることはなく、わたしたちの間には一定の距離がある。


「俺のことをずっと探してるって聞いて、嬉しかったんだ…。でも、俺を襲った敵についてもわからないし、巻き込むわけにはいかなくて、嘘をついた。ベルを突き放すようなこともした。悪かったと思ってる」


 十分巻き込まれた気がするというのは、いまさらだろう。


「もう、俺を狙うやつはいない。だから、あの約束を果たしたい」


 わたしは顔を上げて、勢いよく振り返った。グレンが、わたしを見て微笑む。


「やっと、こっちを見てくれた」


 グレンが、すぐそばまで歩いてくる。


「グレンと名乗ることは許されたが、俺はエルダー子爵家の当主になる。それが養子縁組の条件だったし、拾ってもらった恩もあるからな。第三王子として、リスキア国に戻るつもりはない」


 真剣な瞳で見つめられて、目を逸らすことができない。


「王族としての暮らしはさせてやれない。そこまで贅沢だってできないだろうし、苦労をかけると思う。でも、ベルを誰にも渡したくないんだ」


 わたしの表情筋は、ちゃんと仕事をしているだろうか。


「ベルを待たせたことに、どれだけ報いることができるのか、どれだけ返すことができるかわからないけれど…」


「いらない」


 そう答えると、グレンは信じられないような顔をした。待った分、心配した分、それから探し回った分を合わせた、ちょっとした意趣返しだ。…グレンが悪いわけじゃないのは、わかってるんだけどね。


「地位も、お金もいらない。……グレンだけを、待ってたんだから」


 グレンを泣きながら送り出してしまったから、迎えるときは笑顔で、と思っていたのに、気づけば頬を涙が伝っていた。


「一緒に、来てくれるか?」


 わたしがコクリと頷くと、グレンの表情が綻んだ。


「ありがとう、ベル」


 そして、指をこちらにそっと伸ばして、優しい手つきで涙を拭った。


「最近は、泣き顔ばっかりだな」


 その指摘に、わたしは慌てて俯く。


「顔ひどいから、あんまり見ないで」


 声だってうわずっている。もうちょっと綺麗な状態で出直したいくらいだ。


「そんなつもりで言ったんじゃない。こっち向いて」


 そっと顔を上げると、わたしの大好きな瞳が、本当に嬉しそうに細められていた。


「うん。どんな顔でも、やっぱりベルはかわいい」


 グレンの言葉に、わたしの顔が真っ赤に染まる。


 驚きやら、恥ずかしさやら、照れやらが同時に襲ってきたときに、グレンの顔が近づいてきて、唇にあたたかいものが触れた。


 温もりが離れた瞬間、わたしはグレンに寄りかかった。グレンの腕に包まれて、香りを感じて、吐息を感じて、暖かさを感じた。



「どれだけ待ったと思ってるの」


「…悪かった」


「ずっと心配してたんだからね」


「…すまない」


 グレンだって、大変な思いをしていたはずだ。困らせるのはこれくらいにしておこう。グレンにかける言葉は、もう何年も前から決めていたのだ。


「グレン、おかえりなさい」


「ただいま、ベル」



 * * * * *



 ハリー国王とジャック国王が治める、リスキア国とナイダ国は、お互いに友好関係を築き、それぞれが歴史に名を残す大国となった。



 その要として、とある子爵の存在があったということも、後世に広く知られることとなる。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ひたすらすれ違いばかりでしたね…。


もしよろしければ、評価・ブックマークなどをしていただけると嬉しいです(*^^*)

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