決着
ほんの少しだけ加筆しましたが、内容にはほぼ影響ありません。
「……すべてが終わるのは、あなたですよ」
ジャックや数人の衛兵が、ポールを取り囲んだ。もう逃げ場はない。わたしも、彼らと一緒に姿を見せる。そばには、守るようにクレイがついてくれていた。
「なぜ、生きているんだ…?」
ポールは、わたしと目が合うと、驚愕した様子で一歩下がった。殺したと報告があった令嬢が出てきたのだから、亡霊でも見ている気分なのかもしれない。
「もうこの時点で、あなたの企みがバレていることはお分かりですよね?公爵が全部吐きましたよ」
ポールはしばらく黙り込んでいたが、はぁと大きくため息をついた。
「ダメだったか。これだけ囲まれてたら、反撃もできないな…」
大人しくルイスに捕まるポールを、ジャックが睨みつける。
「残念だったな。香やら婚約やらで、俺たちを巻き込んだのが、そもそもの間違いだ」
「ハリー殿下が捕まえにきたなら、まだチャンスはあったんだけど」
そう呟くポールに、わたしは詰め寄った。
「グレンを襲わせたのも、あなたなんじゃありませんか?」
ポールは何も言わずに、わたしのことを見つめてくるだけだ。
「第二王子だという話もありましたけど、それはカモフラージュ。あなたの犯行だとバレた時の逃げ道なのでしょう?」
「……どうして貴族のお嬢様が、そんな情報持ってるんだ?」
「答えてくださいっ!」
グレンを消せば、ダニアスにも、ポールや第二王子にも利に働く。おそらく、ダニアスがいっていたあの人とはポールのことだ。
「……そうだよ」
「グレンは、どこですか?」
「かなり深い傷を負わせたらしいから、どこかで死んでるんじゃないか?…どうする?俺のこと殺す?」
わたしのことを嘲笑うように、笑みを浮かべる。
「……殺さないわ。あなたと同じことなんて、したくない、から」
そうやって強がりを言いながらも、目頭が熱くなってくる。これで完全に、手がかりが絶たれた。
ルイスや衛兵が、ポールを外へ連れて行く。わたしが膝から崩れ落ちそうになるのを、クレイが支えてくれた。
「全員、撤収するぞ」
ジャックのひと声に、全員が動き出した。わたしも、クレイに支えられながら歩く。動くまでに少し時間がかかったからなのか、わたしとクレイはほぼ最後尾だった。
「メイベル、あとで話したいことが…」
クレイが何かを言いかけたとき、大きな爆発音がした。爆風で、勢いよく吹き飛ばされる。
一瞬の出来事だったが、すぐそばの林のあたりまで転がったことは分かった。誰かに抱き止められていたのに、かなり大きな衝撃がきた。目を開けると、小屋が燃えていた。
「大丈夫、ですか?」
わたしの後ろから、苦しそうなうめき声がしたあとで、小さな声が聞こえた。振り返ると、クレイが顔をしかめている。
「ごめんなさい!わたしは大丈夫だけど、クレイさんが…」
少しでも体重をかけたら痛いだろうと思い、すぐにクレイから離れた。クレイがゆっくり立ち上がり、体のあちこちをぐるぐると動かす。
「なんとか大丈夫そうです」
そう答えるクレイは、爆発の影響か、ボロボロで。そういうわたしも、ドレスはところどころちぎれているし、すり傷だってある。お互い身体中土まみれだ。
「とりあえず、これを着ておいてください」
クレイが、上に着ていたものを、わたしに羽織らせてくれる。クレイはその下に半袖の服を着ていて、細身ながらも筋肉のついた腕があらわになる。
「ありがとうござい…、え…?」
お礼を言ったとき、クレイの腕にあったほくろに目が止まった。そのほくろは、変わった形をしていた。三日月型だったのだ。
グレンにも、同じ場所に、同じ形のほくろがある。
わたしは、よくかわいいと言っていたけれど、グレンは隠したがった。恥ずかしかったようだ。幸いというべきか、公の場ではジャケットを着用することが常であったため、知っている人はほとんどいない。
わたしの視線に気づいたクレイは、はっとした顔で、そのほくろを隠した。
「やっぱり、グレン…?」
彼が目を逸らす。なにも反論してこないことが、きっと答えなのだろう。
「クレイ、ちょっと手伝ってくれ!人手が足りない」
「……すぐにここから離れて」
驚きのあまり呆然としたわたしを置いて、クレイが爆発のあった小屋へと駆けて行く。
わたしは、その場から、逃げるように離れていった。
* * * * *
どうやらポールは、あの小屋に時限爆弾を仕掛けていたらしい。だからあっさり捕まったのだと納得した。幸いにも、ほとんどの人たちが外に出ていたため、大きな怪我人はいなかった。小屋は燃えてしまったそうだ。
ポールは、すぐにカッとなるが、単細胞で扱いやすい第二王子を即位させ、裏から好きなように操る算段だったらしい。第二王子も、ライバルとなるハリーやグレンを蹴散らすことを了承していたようで、同様に逮捕されることとなった。ポールの動機は、ジャックたちが考えていたことで、ほぼ間違いないと証言しているようだ。
そう、すべてが終わったのだ。だが、わたしが事の顛末を知ったのは、妹がくれた手紙だった。
わたしはあの日から、ずっと隠れて過ごしている。
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