王城
前半はクレイside、後半はメイベルsideです。
久しぶりに、ちょっと長めのお話です。
クレイside
彼女に出会っただけで、せっかくの決意が鈍る。
俺には、メイベルの涙を拭うような資格はないし、手の届かない場所にいることだって、わかっているつもりだった。
気づいてほしいのか、ほしくないのか、どっちつかずな態度をとる自分に嫌気がさす。
でも、グレンが誰に消されたのか、そこにメイベルが首を突っ込めば、よくないことに巻き込まれることは分かり切っていた。
とにかく、ダニアスという魔の手から救い出すことができてよかったと思いながら執務にあたる。ダニアスは、よほど恩人のことが大切なようで、あの人が誰なのかも、香を誰から買ったのかも、言うつもりはないらしい。ただ、あの人からの斡旋なのではないかという予想は立てていた。
結局、テオに頼むことになってしまったのは言うまでもないだろう。「依頼被り」と呟いていたから、かなり忙しいのかもしれない。
そんなことを考えながら業務を片付けていると、ジャックとルイスが意気揚々と帰ってきた。
「数日後に客人がくるから、準備しておけよ」
「客人って誰です?」
「…….秘密だ」
ニヤリと笑った顔に、嫌な予感がしたが、その予想は、後日ほんとうに当たることになる。
* * * * *
メイベルside
ジャックからの手紙は、いろいろと巻き込んでしまったお詫びに、王城に招くというものだった。他国の王族からのお呼び出しなど、行かないという返事をするほうが恐ろしい。しかも、指定された日にちは、明日にでも出発しなければ間に合わないほどである。
絶対に断らせるつもりがないのだろうと感じながらも、どうにか準備をして出発した。わたしがいない間に、テオが報告にきても困ると思い、隙を見つけてバーへと会いに行ったのだが、いないと言われ、ナイダ国に行くと言付けを頼んだ。
馬車に揺られること数日、王城に到着したのは、夜遅くだった。まさか来ることになるとは思わなかった王城の門を、馬車がくぐる。
出迎えてくれたのは、クレイだった。目をまんまるにして、わたしのことを見つめている。まるで、わたしが来ることを知らなかったみたい。
「えーと、お久しぶり、です…」
「はい…」
あんな別れ方をしてしまったので、なんともいえない空気が流れている。そこに、ジャックが直々に出迎えてくれたのだから、さらに緊張感が増した。
「急に呼んで悪かったな」
「いえ。お招きいただき、ありがとうございます」
「今日は疲れただろう。そのまま休むといい」
案内された部屋は、わたしにはもったいないほど、広くて綺麗な部屋だった。びっくりしている間に、赤髪と青髪の侍女によって、あれよあれよと荷解きやら着替えやら食事やらが終わった。
ジャックの婚約の噂を打ち消すためにはどうしたらいいのかと頭を悩ませるが、いい案など思い浮かぶはずもない。それに、わたしにはもう1つ気になることがあった。
ダニアスが香を買うなんて、裏のルートがなければできない。ということは、直接にしろ、誰かにもらったにしろ、繋がりがあるということになる。そこを叩けば、あの人に繋がる何かが見つかるかもしれない。
「テオに頼めばよかったな…」
いまさら気づいたことが悔やまれる。
考えていても仕方がないから、少し早いけど寝ようと照明を消すと、月明かりが差し込んできた。かなり明るいため、満月だろうとカーテンを開ける。
「綺麗…」
ため息が出るほど、綺麗な満月だった。こんな日は、グレンが留学へと旅立った日のことを思い出す。
ふと下を見ると、月明かりの下で、2人の人物が何やら話していた。他意はないのだが、思わず、見てしまう。
「あれ?」
そこにいたのは、クレイだった。隣に立って話しているのは、以前パーティーでクレイと楽しそうに話していた、女性だった。なんだかもやもやして、そのままカーテンを閉める。
それから眠れなくなってしまい、枕元の小さな照明をつけて、もってきた本を読むことにしたけれど、内容はしっかり入ってこない。
しばらくして、ドアをノックする音が、静かな部屋に鳴り響いた。
「紅茶をお持ちいたしました」
頼んでないのにと思ったが、ここで頼んでないといって帰らせても気まずい。せっかく淹れた紅茶がもったいないので、もらうことにした。扉を開けると、見覚えのある執事が立っていた。
「テオ!」
我が家に侵入してきたときと、同じ格好だった。
「え、ちょっと、何してるの?とりあえず入って」
慌てたわたしを見て、クスクスと笑いながら、執事姿のテオが部屋へと入ってきた。
「調べ物の定期報告、みたいなものかな〜?」
「でもここ、王城よ?警備だって…」
「まぁ、その辺は聞かないってことで〜」
「…なにか分かったの?」
飛びつきたいのを我慢して、なるべく冷静を装ってテオに尋ねる。
「まず、あの人についてだけど、リスキア国の第二王子の名前が出てきたよ〜」
「え?」
まさか、グレンの身内の名前が出てくるなんて思っていなかった。というよりも、1番考えたくなかった。でも、第二王子なら、誰かに頼むというよりも、自分から乗り込んで行きそうな気がする。
「ただ、少し裏がある気がするから、もうちょっと探るね〜」
「ありがとう」
「………大丈夫?」
わたしが顔を顰めていることに気づいたのだろう。
「うん。……あ、あと、聞きたいことがあって」
わたしはテオに、先程考えていた、ダニアスのことについて話した。
「実はね、売人の裏ボスが、第一王子って話が出てきたんだよね〜」
もう驚きすぎて、言葉が出てこない。本当なら、国をあげた大問題になることだろう。王家の失態どころでは済まない。
「でもこの情報、さっきの第二王子の話から芋づる式に出てきたんだよ〜」
「…………誰かが、意図的に?」
「ご明察。メイベルちゃんとジャックの噂も、何か絡んでると思うな〜」
「知ってたの?」
「もちろん」
ちょっと自慢げに胸を張るテオが、少しだけかわいく見えてしまう。
「それから、グレン・リスキアについてだけど…」
わたしはゴクリと唾をのんだ。1番、待ち望んでいたものだから。
「……………メイベルちゃんなら、見つけられる」
「…ちょっと、どういうこと?」
「そういうことだよ」
そう言ったテオは、逃げるように扉に手をかける。
「え?待って!」
「気をつけてね、メイベルちゃん」
テオの袖を掴もうとしたが、あと一歩のところで間に合わず、扉を閉められる。急いで扉を開けたが、廊下には誰もおらず、走り去る足音さえも聞こえなかった。
「王城の警備、薄くない?」
部外者がほいほい入ることができるなんて、いろいろと問題がありそうだ。
情報は手に入ったけど、誰かの流した情報に、意図的に踊らされている可能性も高そうだった。
「グレンのこと、見つけられないから、聞いてるのに…」
見つけられるだなんて、何を根拠に言っているのか。そうよ、根拠が…。
テオは、何かを、知ってる?
お読みいただき、ありがとうございます!
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そろそろ完結に向かおうと思っております。どうか最後までお付き合いくださいませ。




