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一歩近づいた

なぜか話の雲行きが怪しくなってきたので、R15は念のためという文言を外させていただきます。混乱させてしまい、申し訳ありません。

こんなつもりじゃなかったんだ…。

 父の元に、ダニアスからの正式な招待状が届いており、断りきれないまま来てしまった。わたしの元に送られてきたら、基本的に送り返していたけれど…。


「僕と結婚してほしい」


「お断り致します」


 部屋に通されてからの第一声がこれである。


「……まだ、あいつのことを?」


「えぇ。ずっとそう申し上げていますよね?」


 面倒だと思いながら、目の前にあった紅茶に手をつける。



「せっかくあの人に消してもらったのに…」



 そのダニアスの言葉に、動きが止まった。いま、消したといった?グレンのことを?


「消した…?」


「聞こえてたのか」


 その言葉とは裏腹に、まったく焦った様子もなく、ダニアスがこちらを見てくる。


「邪魔だったから消した」


 夢だと思いたかった。そんなことあるわけないって、誰かに言って欲しかった。


「消したって、殺したってことですか?」


「そこまでは知らない」


 呼吸は浅くなっているが、自分でも驚くくらい冷静に話を聞くことができた。


「君に一目惚れしたのに、その時にはもうグレンがいたんだよ。メイベルのそばからあいつが消えたら、それで良かった」


 それが本当なら、グレンが山賊に襲われたという話は捏造や偽装、もしくは故意に仕組んだことになる。


「……あの人って誰ですか?」


「恩人なんだから、言えるわけない」



 そのとき、身体から力が抜けていくような感覚に襲われた。なぜか、瞼がとても重たい。頭が霞んでしまったかのようにもやもやとしている。


「そんなの…」


 許されるわけがない。そう言いたかったのに、うまく話すことができない。やっと見つけたグレンへの手がかりなのだ。指示したのがダニアスだってことも、あの人という人物の正体も、知らなければならないことがたくさんある。


「睡眠薬、効いてきたかな」


 さっきの紅茶に入っていたのか。ほいほい飲んだのが間違いだった。こんなことになるなんて、さすがに予想していなかったから。


 ダニアスが近づいてくる。なんとか上体に力を入れて、伸ばされた腕を突き飛ばすのが限界だった。


「起きた時には、幻覚の世界だから」


 遠ざかる意識の中で、最後に見えたのは、突き飛ばしたのにも関わらずニヤリと笑う、ダニアスだった。



 * * * * *



「さて」


 ダニアスが香を出した。そのとき―――



「現行犯!逮捕!」


 勢いよく開かれた扉から、ジャック、ルイス、クレイ、そしてナイダ国の軍隊が突入してきた。


「なぜ?!」


 反撃の間もなく、ダニアスは拘束された。


「本名で取引するとかバカだろ」


 ダニアスの顔が、みるみるうちに歪んでいく。


「あいつ、誰にも言わないと言ったのに…」


「裏社会で、誰にも言わないなんてあり得ない。中途半端に突っ込むから痛い目に遭うんだ」


 ルイスがダニアスから香を回収している間に、クレイが眠ったままのメイベルを横抱きにした。


「せっかくここまできたのに…。もう少しでメイベルが…、ヒッ!」


 クレイが、目線だけで殺せるのではと思うほどの鋭さでダニアスを睨みつけていた。小さく叫んだダニアスが、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。


「耐えろ、クレイ」


「………チッ」


 ジャックにそう言われたクレイは、舌打ちをしたが手を出すことはなく、メイベルを抱えて部屋から出て行った。


「じっくり話を聞かせてもらうからな」


 もうダニアスに、逃げ場はなかった。



 * * * * *



『ベル』


 あぁ、グレンが呼んでる。会いたい。話したいことがたくさんあるの。どうしてこんな大事なときに、グレンの声が遠ざかっていくのだろう。



 そう思って、重たい瞼を開く。眩しくて、思わず目を細めてしまったが、もう一度ゆっくりと目を開いた。そこに見えたのは、綺麗な翠眼で…


「―――グレン」


「……人違いですね」


 記憶の隅にあったものと同じ会話が続いた。またやってしまったと、無意識のうちに苦笑する。そこにいたのは、グレンと同じ瞳で、黒髪の青年だった。


「……クレイさん」


「目が覚めてよかったです」


 本当にほっとした様子のクレイを見て、自分の置かれていた状況を思い出した。


「そうだ!ダニアスは…」


「あなたが眠った後、すぐに捕まえたので、安心してください」


 ナイダ国から香を買ったのがダニアスだと判明し、慌てて追ってきたそうだ。現行犯で捕まえられるよう密かに動いていたらしい。


 わたしが、いつかグレンのことを諦めるかと思ったのに、ダニアスの予想に反して何年も待ち続けた。なんとかしてわたしを手に入れようと、香を買い、ひたすら幻覚を見せて、手元に留めようとしていたらしい。そんなこと続くわけがないのに、考えなしにもほどがある。


「クレイさんたちには、本当に助けてもらってばかりですね。ありがとうございます」


「売買を阻止できなかったこちらが悪いんです。無事でよかった」


 クレイに手を貸してもらい、上半身だけを起こす。見渡すと、わたしの部屋だった。


「ここ、わたしの部屋…」


「えぇ、目が覚めた時に、自分の部屋にいたほうが安心できるのではと思って…」


 さらに、起きた時に誰もいなければ不安だろうと、そばについていてくれたらしい。ジャックたちは、両親に今回のことを説明してくれているそうだ。


 わたしは、ダニアスの言っていた()()()について聞くために、クレイに話しかけた。


「あの、クレイさん。グレンのことなんですけど…」


「はい」


「ダニアスが、誰かに、その…、消すようにって、頼んだそうなんです」


 クレイの眉間に、深い皺が刻まれる。おそらく、取調べの時に聞いたのだろう。


「わたし、ダニアスが関係してるなんて、考えたことなくて…。一緒に話したりとかしてて」


 おかしい。あの人の正体について聞きたいのに、出てくるのは違う言葉ばかりだった。


「全然、気づかなくて。気づいてたら、もっとはやくグレンを、探せたかもしれないのに」


 グレンを消そうとした張本人であるダニアスにだって、それ相応の罰を与えてほしいと思う。グレンと同じ苦しみを味わってほしいと思う。


「ダニアスと、呑気にやり取りしてたんだって、思ったら、悔しくて…」


 でも、それ以上に、そんなやつといた自分自身にも腹が立った。


「…わたしがいなければ、グレンが消されることも、なかったかも」


「メイベルは、悪くない」


 知らぬ間に俯いていたわたしは、クレイの声に顔を上げた。頬に冷たいものが流れているのを感じて、はじめて泣いているのだと気づいた。


「悪くないから、大丈夫」


 膝の上に置いていたわたしの冷たい手に、クレイの手がそっと重ねられ、温かさが伝わってくる。優しいクレイの声が、荒んでいた心にすっと溶け込んだように感じた。


「…泣いていいですよ。この部屋には僕しかいませんから」


 もうわたしの涙腺は、ボロボロになってしまったらしい。クレイに縋り付いて、声を上げて泣いてしまった。


 グレンに関する現実を急に突きつけられて、気づかないようにしていた喪失感が、奥底に眠らせていたはずの不安が、じわじわと押し寄せてきたのだ。悲しい気持ちに囚われてしまうから、考えることから逃げていたのに。


 生きていなかったら、どうしよう。忘れられていたら、どうしよう。怖くて怖くてたまらない。待っているのはわたしの勝手だと、あれほど自分に言い聞かせているのに、あの頃の幸せを手放すことができない。


 グレンとの思い出が、次から次へと溢れてくる。どうして、いま、よりによってこんなときに思い出してしまうのだろう。会いたくてしょうがない。


 いまは、涙が止まるのを、待つしかなかった。



お読みいただき、ありがとうございました!

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