侵入者
前半はメイベルside、後半はクレイsideです。
メイベルside
あれから、ダニアスをパーティーに誘ったのは父だとわかって一悶着あったり、勝手に抜け出したことを怒られたり、ジャックとの繋がりについて聞かれたりなど、まぁいろいろとあった。
妹たちが仲裁に入ってくれたので、なんとか収まった、もうほんとに彼らには頭があがらない。もちろんパーティーの主催者には、手紙や贈り物で謝罪の意を伝えた。
その後すぐに帰国したため、クレイたちには会っていない。ダニアスも、まだ用事があるからといって帰国しなかった。心底ほっとしたことは言うまでもないだろう。
* * * * *
何事もなく2週間ほどが過ぎたある日のこと、夜も更けて薄暗くなった屋敷の廊下を、わたしが1人で歩いているときだった。
ガタッ
いまは誰も使っていないはずの部屋から、物音が聞こえたのだ。気のせいかとも思ったが、一度聞こえてしまったからには、気になるのが人間の性である。まわりには助けを求められる人が誰もいないため、仕方なく1人で突入することにした。誰もいなければそれに越したことはない。
ゆっくりとドアノブに手をかけ、ガチャリと音を立てながら扉を開く。覗き込んだ先には…
「おや、メイベルお嬢様」
どうやら執事の服を着た男が、部屋の中を片付けていたらしい。
「あら、何してるの?」
「メイベルお嬢様こそ、もうお休みになられる時間ではありませんか」
「そうなんだけどね。ちょうど手伝って欲しいことがあったの。あなたでいいから来てくれる?」
「……かしこまりました」
執事を連れて、部屋へと戻る。とくに何もなく、部屋まで付いてきてくれたことにまず安堵した。だって、彼は執事ではないから。
「で、あなたは誰?」
「執事でございますよ、お嬢様」
「たしかにうちは使用人がたくさんいるけど、全員の顔と名前は把握しているわ」
我が家に仕えてくれている使用人は、新人が入れば必ず挨拶にくるし、その際に顔と名前をきちんと一致させる。この男が我が家の執事でないことは、明らかだった。
「……妹は優秀だと聞いてたけど、君もそれなりなんだね〜」
男の声はそのままだが、話し方が変わった。自分が侵入者であることを認めてくれたらしい。緊張で心臓が早鐘を打っているのを、深呼吸して抑える。
「何しにきたの?」
「ちょっと用事があってね〜」
「……泥棒?」
「いや、物は盗まないよ〜」
「誰かが怪我したりとか…」
「ないない。そんなのプロのすることじゃないよ〜」
「そうなの?」
「うん。信じてもらえるかはわからないけど、危害を加えるつもりはないから〜」
笑顔で話していた彼の口調が、突如鋭いものに変わった。
「誰かに売るの?僕のこと」
「…え?何言ってんの?売らないわよ」
「は?」
目を丸くした彼は、信じられないようなものを見る目で、わたしのことを見ている。
「今日のことは誰にも言わないわ」
「…要求は?」
「わたしからあなたに会いたいときは、どうしたらいいのか教えて欲しいの」
「………そうきたか〜」
彼は、物は盗まないと言った。おそらく盗むのは、情報だろう。コネを持っておいて損はない。
「ファリスというバーがある。そこで、いつものが欲しいと言って、人差し指で机を3回叩いたらいい。僕がいたら出ていくし、この国にいなければ言付けを頼めるよう手配してある」
はぐらかされたらどうしようかと思っていたが、意外にもすんなり教えてくれた。本当かどうかはわからないが、覚えておこうと、教えてもらった手順を何度も頭の中で繰り返して叩き込む。
「じゃあ、僕はそろそろ行くね〜」
そう言って、彼が開けたのは、扉ではなく窓だった。
「え?!」
「あの部屋が最後だったんだ〜。もうここには用ないから」
さっきまで漂っていた緊迫感が消え去り、ずいぶんとのほほんとしたものに戻った。
「いや、そうじゃなくて。そこから降りられる?ここ3階だけど…」
「うん、へーき」
そのまま流れるように体を乗り出したため、わたしは急いで彼の手を掴んだ。
「ねぇ最後に1つだけ!どうして逃げなかったの?」
部屋までついてきてくれるかも賭けだったし、正直、逃げられたらそれでいいとは思っていた。口封じに殺されるのだけは勘弁してほしいと思っていたけれど。もうあんな思いはごめんだ。
「話してみたかったんだ、メイベルちゃんと」
今度こそ本当に、彼は窓からひらりと降り立ち、走り去っていった。緊張が解けたわたしは、体から力が抜けて、そのまま座り込んだ。
「名前聞くの忘れちゃった…。まぁいいか」
* * * * *
クレイside
「香の買手が見つかったよ〜」
テオの言葉に、いつも通りの金を出す。
「名前は、ダニアス・ツーベルト。まさか本名でやり取りしてるとは思わなかったよ」
思考回路が止まった。まさか、そんなはずはない。
「………冗談はよせ」
「本当だよ。メイベルちゃんはどうだろうね〜」
体が勝手に動いて、気づいた時にはテオの胸ぐらを掴んでいた。
「珍しい〜」
「なぜもっと早くに言わないんだ!」
「周辺を洗ってたんだよ。これでも最速だ」
「………悪い」
力を込めていた手が、だらりと落ちる。
「彼女のことは…」
「情報としては扱わないって、約束したから〜」
メイベルを守るためのものが、仇になるとは思わなかった。メイベルが巻き込まれているかどうかを、知ることができない。とにかく、動き出さなければならないことは確かだ。
「…助かった。また連絡する」
ジャックたちに知らせるため、駆け出した。
「メイベルちゃんとこまでは、まだ回ってないから、頑張れ〜」
テオの小さな呟きを、聞かぬまま。
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