結婚パーティー 3
2本目です!
いつもお待たせしてしまい、申し訳ありません。
そんな中でも、応援してくださる皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、よろしくお願いします!
その声は、いつも助けてくれるあの声で。弾かれたように振り返ると、クレイがわたしの方に向かって駆け寄ってきた。
ほっとしたのか、なにも言えなかったのが悔しかったのか、クレイのことを悪く言われたのが嫌だったのか、人の結婚パーティーでなんてことをしてしまったのだという思いなのか、目立ってしまった恥ずかしさか。とにかく、クレイの声を聞いた瞬間、いろいろな感情が込み上げてきて、気づいた時には目頭が熱くなっていた。
「どうしたんですか?!何か…」
「…………いつも、見つけてくれる」
無意識に言葉が溢れていて、わたしではどうしようもない。気持ちがぐちゃぐちゃだ。
不意に頭に手が置かれ、ヘアスタイルを崩さないように、優しく頭を撫でられる。クレイの手の温もりは、妙に安心するもので、こんな時なのに、つい頬が緩んでしまうのがわかった。
涙をなんとか引っ込めると、クレイが手をおろし、わたしの手を掴んだ。つられてわたしも足を動かす。
クレイが連れてきてくれたのは、先程までいた会場の賑やかさとはかけ離れた、人気のないバルコニーだった。吹き抜ける涼しい風が、熱をもった目に心地いい。
「ここまできたら大丈夫でしょう」
クレイとは、あの日以降会っていないので、少し緊張する。額に感じた唇の感触や、膝枕なんかを続け様に思い出してしまって、クレイの顔をまともに見ることができない。逃げるように去ってしまった罪悪感も、少しだけあった。
「ダニアス様と、何かありましたか?」
クレイはおそらく、ダニアスが、婚約者のようなものだと勘違いしているのだろう。どんなに面倒でも、クレイの誤解は絶対に解きたい。どうしてクレイには、勘違いされたくないと思ってしまうのか、そのあたりのことは気づかないふりをして、俯いていた顔を上げた。
「いろんなこと考えてたら、なんだか泣きたくなっちゃって」
「そうでしたか」
「ダニアスはずっとあんな感じで。婚約者面して、勝手に隣にいるんです。両親には気に入られているんですけど…。わたしは苦手ですね」
「あの方と婚約は…?」
「心底嫌です」
即答である。
「手厳しいですね」
「ありがとうございます」
「フフッ、褒めてないですよ」
そういって笑うクレイの顔は、月明かりに照らされて、とても幻想的だった。
「よかった。クレイさんが笑ってくれて」
「え?」
「この前のクレイさん、とても悲しそうな顔をしてたから、ちょっと心配してたんです」
避けられたのではないか、何か嫌なことをしてしまったのだろうか、と不安だった。なにか悩み事があるなら、聞きたいと思った。少しでも力になれたらと。
「……バレてたか」
クレイがなにか呟いたような気がしたが、小さすぎて聞き取れない。
「なんて…?」
「いえ。なんでもありません」
「身分の差を気にしてたんでしょう?」
「………ん?」
「ダニアスから聞きました。クレイさんが子爵家の養子だってこと」
「…そうですか」
「いくら貴族とはいえ、その中にも身分差は存在してしまいます。でも、わたしはそんなの気にしません」
きょとんとしているクレイの袖を、ギュッと掴む。
「侯爵と子爵が一緒にいちゃダメなんて規則ないです。だから、これからも仲良くしてほしいなって…」
「ハハハッ!」
突然笑い出したクレイにギョッとする。思い返してみたが、笑うポイントなんてなかったはずだ。
「そう取っちゃいましたか」
「えーと…、わたし、何か取ってました?」
「………えぇ、かなり前から」
「なにを?」
首を傾げたわたしをよそに、クレイが壁に背を預けた。風に靡くクレイの髪は、闇に溶けてしまいそうなほど黒い。なぜかこのままだと、彼が目の前から消えてしまいそうな気がして、怖かった。
「そういえば、クレイさんたちはどうしてここに?」
「招待状は届いていたんですが、本当は別に予定があって、不参加のはずだったんです。それなのに、ジャックが急に無理やりでも参加する、と言い出したから驚きました。まさかあなたがいるとは…」
「わたしだって驚きました。ジャック殿下と従者の方々だったなんて!なんで言ってくれなかったんですか?」
わたしは、わざと怒ったような表情を作る。
「すみません。ジャックに口止めされていて…」
「もう!わたしがどれだけびっくりしたか」
おそらくクレイは、本気でわたしが怒っていないとわかった上で、この遊びに付き合ってくれている。
「どうすれば、機嫌をなおしていただけますか?」
「あなたのことを、教えてほしいの。あなたの口から、あなたの言葉で」
「……………喜んで」
クレイから聞いた話は、要点だけならば、ダニアスから聞いたことと大差なかった。それなのに、同じ内容でも、彼の口から紡がれたものは、聞いていて心地が良かった。
養子になってから、いろいろあって、ジャックの目に止まり、側近までのぼりつめたらしい。いつもジャックに振り回されて困っていると言うが、クレイの柔らかい表情を見るに、なんだかんだと楽しんでいるのだろう。
グレンが行方不明になったのと同じ年齢で、彼が養子として引き取られていたことは、考えないようにした。
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