結婚パーティー
お待たせしました<(_ _)>
「そんなに怒らないで、メイベル」
「………」
せっかくの祝いの席で、あんたのせいだよ、なんて叫び出すわけにもいかず、わたしは無言でダニアスを睨みつけた。そう、隣にダニアスがいるのである。とりあえず、終始無言を貫こうという小さな決意を胸に壁際に立っていた。せめてグレンでも見つかれば話は多いに変わるのだが、残念ながら空振りだ。
父は、お世話になったというここの主人と、パーティーの主役である娘夫婦と、楽しそうに話をしている。手持ち無沙汰なわたしは、この地獄の時間をどうやって乗り切ろうかと思案していた。
「王太子殿下のご到着でございます」
会場の扉が大きく開かれると、そこには煌びやかな3人の男たちが立っていた。
「え…?」
そこにいたのは、ジャック、ルイス、そしてクレイだったのだ。わたしが見つめているのに気付いたようで、クレイだけがこちらを向いて微笑んでくれた…気がするが、正直それどころではない。
「ジャック殿下、お久しぶりでございます」
「あぁ、遅くなってすまないな」
ジャック殿下ってことは、あの人王子だよね?そばにいる2人、絶対側近とか護衛だよね?そりゃバッジ持ってるに決まってるよ。知らなかったとはいえ、疑ってかかってしまった過去の自分を全力で殴りたい。と、もたらされた衝撃が大きすぎて、わたしは現実逃避をしていた。
遠巻きに彼らを見つめていたところまでは平和だった。しかし、話を終えたらしい3人が、迷いなくこちらへと歩み寄ってくるのが見える。いや、まさか、そんなはずない、と思っているうちに、わたしの目の前で3人が立ち止まった。
「メイベル、半月ぶりか?」
「………はい。ご機嫌よう、ジャック殿下」
「そんなにかしこまらなくていい」
「そうおっしゃられましても…」
なぜ他国の令嬢がジャックと顔見知りなのかと、好奇の目に晒されているのがわかり、大変居心地が悪い。こんな注目の的になるなんて聞いてないし、人見知りにはレベルが高すぎる。
「あの時はもう少し砕けた話し方をしていただろう。あれでいいぞ」
「そんなことしたら…」
あの場は非公式のものだったが、いまは違う。さすがにそんなことしたらまわりが黙っていないだろう。
「なんだ、不満か?」
ジャックの声が、むっとしたものになったので、わたしはよくわからないまま、無意識のうちに返事をしてしまった。
「いえ!滅相もございません!」
勢いよく返事をしてから気づいたのだ。あ、これはやっちまったな、と。極度の緊張状態は、よくないものを生み出すのだな、と。
「殿下、彼女が困っていますよ。それくらいにしておいてください」
「クレイさん…」
助け舟を出してくれたのはクレイだ。それでも、返事をしてしまったのだからもう遅い。もう少しはやく助けてくれたら、なんて贅沢を言ってはいけない。
「あなたがクレイ・エルダーですか」
「っ!」
そこで、すっかり忘れていたダニアスが口を開く。わたしの中では、ダニアスの存在は、すでに空気になっていたので、必要以上に驚いてしまった。
「そうですが、あなたは?」
「ダニアス・シーベルツ」
「シーベルツ侯爵家の次男ですね」
隣でルイスが冊子をパラパラめくり、目的のページで手を止めた。どうやら参加者名簿を持っているらしい。なぜ持っているのか、なんて藪蛇なので、聞かないことにする。
「お会いできて光栄です」
ダニアスが腰を折り、頭を下げる。
「そういう堅苦しいのは好きじゃないんだ。それより、どうしてクレイ・エルダーのことを?」
部下よりも王太子の存在を気にすることのほうが普通だろうと、遠回しに伝えているのである。
「メイベルからの手紙に、良くしていただいていると書いてありましたので」
どんな方か気になっていたんです、と言いながら、ダニアスが朗らかに笑う。わたしは昔から、彼の何か含んでいるような笑顔が苦手だった。
「君たちは、仲がいいのだな」
「そんなことありません」
わたしは即座に否定する。
「照れているだけですよ」
これもいつもの流れだ。どんなに否定したところで、ダニアスにうまく言いくるめられてしまう。いつもなら口だけなのだが、なぜか今日は、肩に腕を回され、抱き寄せられた。運悪くヒールの高い靴を履いてきてしまったわたしは、踏ん張ることができずに、ダニアスに寄りかかってしまう。人前で目立っている恥ずかしさと、この事態を回避できなかった悔しさで、顔が少し赤らんだ。
もうここまできたらどうにでもなれと、渾身の力を込めて、ダニアスの腕を振り払う。
「そんなんじゃありません」
「いつもの照れ隠しかな」
グレンなら、照れ隠しじゃないことも、分かってくれるだろうか。
わたしは一刻も早く、ここから逃げ出したかった。でも、わたし1人が逃げて、ダニアスを残していくと、何を言われるかわからなくて怖い。その場にいる誰とも目を合わせることなく、彼の手を引きずって、退場するしか、選択肢がなかった。
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