表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/28

潜入 2

 誰かがうめき声を上げて倒れた。


「おい、どう…」


 わたしを掴んでいた相手から、力の抜けた気配がすると同時に、ナイフが床に落ちた音が聞こえる。突然加わっていた力がなくなり、よろけてしまったが、誰かに抱きとめられる感触がした。



 抱きとめられた感触は、覚えのあるもので。ふわりと広がる香りに、あぁ、初めて会った時と同じだ、なんて呑気に考える。



 ゆっくりと瞼を開くと、待ち望んでいたエメラルドグリーンの瞳が、心配そうに、わたしを覗き込んでいた。


「メイベル、怪我は?!」


 初めて名前を呼んでくれた。助けに来てくれたことよりも、名前を呼んでくれたことが嬉しいなんて、どうかしている。


「……平気です」


 深呼吸してから絞り出した声は、自分でも驚くほど掠れていた。


「無事で、よかった…」


 突然、クレイに力強く抱きしめられた。そのあたたかさに、とにかくほっとする。落ち着かせるように、ゆっくりと頭を撫でる手つきは、とても優しい。グレンも、こうやってよく撫でてくれたことを思い出す。あの頃の手とは、大きさは違うけれど、感じるあたたかさは同じだ。


「クレイさんこそ、大丈夫ですか?」


 そう問いかけると、クレイは少し体を強張らせた後、手をおろして、わたしからそっと離れていった。


「僕は大丈夫ですよ。間に合ってよかった」


 気づけば、震えもおさまっていた。少し落ち着いてきたところで、大事なことを思い出す。


「あ、そうだ!この人たち…」


 わたしは、会場を離れてから起こったことを、なるべく簡潔に話した。


「そばにいるように言われていたのに、勝手に離れてごめんなさい」


「いえ。あなたが無事なら、それでいい」




 そこへ、ジャックとルイスも合流した。


「あー…」


 状況を見て、いろいろと把握してくれたらしい。警備の人たちが続々とやってきて、気を失った2人を捕らえて、連れて行った。


「クレイさんに、助けてもらってばかりですね。ありがとうございました」


「……必ず守ると、言いましたから」


 クレイは、守ってくれたのだ。わたしのことも、わたしに告げた言葉も。心にあたたかい何かを感じたのを振り払うように、クレイに問いかける。


「どうして、わたしがここにいるってわかったんですか?」


 クレイから返ってきた言葉は、意外なものだった。


「あなたのイヤリングが、光ったのが見えたんです」


「イヤリングが…」


 わたしはいつものように、耳元で揺れているイヤリングに触れた。


「本当に、守ってくれたんだ」


 守り石が守ってくれたのか、グレンが守ってくれたのか。どちらにしろ、このイヤリングに助けられたのは間違いない。


「ありがとう、グレン」



 イヤリングに意識を向けていたメイベルは、クレイが息を呑んだことに、気づかなかった。



 * * * * *



「初めて見たよ。あんなに血相変えたクレイ」


 わたしが1人でいると、ルイスが近づいて来た。


「すごい勢いで走って来たと思ったら、メイベルのこと見てないか?帰ってくるのが遅いから探してるのに、どこにもいないって」


 わたしたちの視線の先にいるクレイは、何やらジャックに怒っているようだ。今日は新鮮なクレイがたくさん見られるな、と言って、ルイスは話し続ける。


「僕とジャックは、取引現場だと思ったところに目星をつけて、そこを張ってたから、あまり大きくは動けなくてね。もう少し助けるのが遅かったら、間に合わなかったかもしれない、とは聞いている」


 いつのまにか、ジャックとクレイも、わたしのそばにきていた。ルイスの続きを、ジャックが引き継ぐように話し出す。


「会場班のクレイが1人だと変に目立つから、君に一緒に来てもらった。会場での取引の可能性はほとんどなかったから、大丈夫だろうと油断した。結果的に、君を危険な目に遭わせてしまった」


 以前の、少し強気な表情とは違い、覇気がないように感じる。


「本当に、すまなかった」


 大人3人が頭を下げているのは、ある意味壮観だ。


「わたしの不注意もありましたし…。それに、悪い人が捕まってよかったです。ありがとうございました」


 だから頭をあげてください、と言うと、おそるおそるといった様子で、3人が顔を上げた。タイミングもほとんど同じで、きっと仲がいいんだな、なんて思ったことは秘密だ。



お読みいただき、ありがとうございました!

もしよろしければ、評価・ブックマークなどをしていただけると嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ