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お誘い

 わたしに話しかけてきた人はジャック、そばについていた人はルイスというそうだ。


 クレイはジャックのことをさらっと掴んで、しれっと引きずり、なにやらコソコソ話している。


「上司のこと、掴んでいいのかな…?」


「ハハッ、その辺はあまり気にしないで」


 笑いながら、ルイスがわたしの方へと歩いてくる。タレ目が特徴的な青年だ。


「クレイが自主的に休みを取るのが珍しくて、面白半分でついてきてしまったんだ。驚かせてごめんね」


「いえ…」


 そのとき、こそこそと言い合っていたジャックとクレイが戻ってくる。立ち話もなんだからと、彼らの行きつけの店へと向かうことになった。ナイダ国の人たちは、出会ったら行きつけの店に連れていかなければならない法律でもあるのだろうか、と思うくらい、デジャヴである。


 入ったのは、前のお店と似たような、静かな雰囲気の喫茶店だ。だが、以前と違うのは、完全な個室であること。しかも、店の1番奥である。


「さて、話してもらおうか。名前は?」


 ジャックに問われたわたしがメイベルと名乗ると、眉毛がピクッと動いた気がしたが、瞬きをすると元に戻っていたので、きっと気のせいだろう。わたしは、たまたまクレイに出会ったこと、とある人を探していること、クレイはそれを手伝ってくれていて、手を繋いでいたのは迷子防止のためなのだと、これまでのことをかいつまんで説明した。


「ふむ…」


 どうにも納得がいかないといった表情で見つめられるのだが、それ以外に話すことなど何もないので、こちらとしても困ってしまう。


「本当にそれだけか?」


「はい」


「付き合ってるとか…」


「「違います」」


「………そうか」


 わたしとクレイの声がぴったりと重なる。それを聞いたジャックは、軽く返事をしたあと、長い足を組みかえ、さらに質問を続けた。


「そういえば、メイベルはどうしてナイダ国に?」


「父の知り合いの結婚式に参加するためと、長期休暇も兼ねて」


「結婚式はいつ頃だ?」


「あと2週間後だったはずです」


「じゃあ、少なくともそれが終わるまでは、こちらに滞在するというわけだな」


 どうしてこんなことを聞かれているのかと不思議に思っていると、なぜかわたしのことを見つめたまま、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ちょうどいい。メイベル、少し協力してくれないか?」


「なんでしょう?」


「潜入捜査を手伝ってほしい」


「……………はい?」



 * * * * *



 なにやら怪しい取引が行われるとの情報が入り、ジャックたちは、その取引の舞台となるパーティーへと潜入するらしい。

 彼からの頼み事は、しごく簡単だった。パーティーでクレイのそばにいてほしい。ただそれだけ。この申し出がすでに怪しいことは、言うまでもないだろう。


「その情報、わたしに話してもいいんですか?」


「あぁ。君は問題ない」


 妙に自信たっぷりに言われているが、そもそも出会ったばかりのわたしに、白羽の矢が立つのがおかしいのだ。


「その役目、わたしじゃなくてもいいのでは…?」


「あんなに柔らかい表情をしているクレイを見たのは初めてだ。こいつは、いつもしかめ面をしているから潜入には向かないんだが、メイベルがいてくれたら問題ない」


 クレイがいつもしかめ面なんて、あまり想像できないなぁと思っていると、そのしかめ面のクレイが割り込んできた。


「協力なんてしなくていいです。断ってください。ジャックも、彼女を危険なことに巻き込まないでください」


「俺たちがいるから心配ないだろう。それに、他国の人物の方が、顔が割れてないから助かる」


 口の中がカラカラだと思って、運ばれてきた紅茶を飲んだのだが、緊張しすぎて味がしない。なんとか口の中を湿らせてから、そっと口を開く。


「…そもそも、皆さんが、その取引に関わる怪しい人物ではないと、わたしはどうやって信じればいいんでしょう?」


 クレイの仲間だというのだから、悪い人たちではないことは分かるが、取引に利用されたらたまったものじゃない。取引に利用されるのであれば、こんなに正面切って言ってくることなんてないだろうが、念には念を入れたい。


「そう警戒するな。ルイス、あれを」


 ルイスが机の上に、小さなバッジを置いた。ジャックから視線で促されたのであろうクレイも、同様にバッジを取り出す。よく見ると、ナイダ国の国旗が描かれていた。


「これって…」


 国旗のバッジは、その国に仕える者の証である。少なくとも、犯罪組織側の人間ではないらしい。


「俺たちの疑いは晴れたか?」


 ジャックからの問いかけに、わたしはゆっくりと頷いた。先程の頼み事が、余計に現実味を帯びてくる。


「探し人も見つかるかもしれないぞ。どうだ?」


「……たしかに。行ってもいいかも」


「ダメです」


 ちょっと揺れ始めたわたしを見て、クレイが即座に止めに入る。


「クレイ、お前には聞いていない。メイベルに聞いているんだ」


 ジャックからの一言を受けて、押し黙ってしまったクレイから、痛いくらいの視線がわたしに注がれているのが、見なくてもわかる。


「さぁ、メイベル。どうする?」



 最終的に、好奇心が勝ってしまった。


「………………お手伝い、させてください」


 クレイの顔を見ることは、できなかった。


 

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