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上司とは

 ダニアスへの手紙を投函して、目的の広場へと向かう。書くことがなかったので、クレイとグレン探しをしているということを書いた。そっくりだということは、面倒なので書かなかったが…。



 わたしは胸を弾ませながら、クレイとの集合場所へと来ていた。以前よりもはやく着いたはずなのに、そこにはもうクレイが立っていた。


「またお待たせしてしまったみたいで、すみません」


「いえいえ、大丈夫ですよ。では行きましょうか」


 今日は、以前よりも人通りが多いところを探すらしい。どちらかといえば観光地に近いところのようだ。



 それにしても、とクレイが突然話し始めた。


「まるで呪縛のようだ」


 少し低めのトーンに、普段とは違う雰囲気を感じて、思わずクレイの顔を凝視してしまう。


「あなたをそんなに苦しめる呪いになるくらいなら、その方も、約束を交わさなければ良かったと、後悔していると思いますよ」


 見上げたクレイの顔は、他人のことを話しているのに、なぜかとても苦しそうだった。まるで、クレイの方が、何かに囚われているようだ。


「わたしは後悔していませんよ」


「……………え?」


 明らかに困惑しているクレイの歩みが、少しゆっくりになる。


「たしかに、苦しくないと言ったら、嘘になりますけどね」


 思い続けることは、苦しい時だってある。それでも、グレンと出会ったことに、あの日、約束を交わしたことに、後悔はしていない。


「もう一度やり直せると言われても、グレンと、また同じ約束を交わします」


 きっと何度だって、恋に落ちてしまうから。


「あなたの人生の貴重な時間が、人探しのために使われて終わってしまうとしても?」


「新しいお店を見つけたり、いろんな人との交流があって、意外と楽しいんですよ?」


 わたしは、クレイに向かって微笑む。


「それに、クレイさんとも出会えました。とっても嬉しくて、素敵な出会いです!」


 クレイには、本当によくしてもらっていると思う。


「………その言葉、誰にでも言わないでくださいね」


「なんでですか?」


「男は勘違いしますから」


 この人に、彼の面影を見るのは、勝手に感じるのはもうやめようと決めたばかりなのに、含みを持たせた表情でにこりと笑ったクレイから、目を離すことができなかった。




 次の瞬間、クレイの表情が険しくなる。


「こっち」


 何事かと驚いていると、突然腕を引かれて走り始める。細い路地をくねくねと曲がっていき、さっきまでいたのとは違う通りへと抜けたようだ。日頃の運動不足がたたって、はぁはぁと肩で息をしなければ、酸素がたりない。


「急に…、どうしたんですか…?」


 クレイが、バツの悪そうな顔をしながら頬をかく。


「その、ちょっと…、会いたくないというか、気まずい人がいたもので」


 逃げ出すなんてよっぽどだろう。もしかしたら、わたしがいるから余計会いづらいのかもしれない。勘違いされたくない人って…


 恋人か、婚約者しかいないのでは?!



 そのとき、クレイとまだ手を繋いだままだったことに気づいたわたしは、さりげなく解こうとするが、クレイの手に、なぜか力が込められる。


「あの、手を………」


「手はこのまま繋いでおきましょう。人混みですし、はぐれても困りますからね」


 さりげなく、わたしの手を引いて歩き出すクレイに合わせて、足を動かすのはいいものの、クレイと手を繋いだからか、先程走ったからか、心臓のドキドキが止まらない。


「でも、恋人の方に見られたら大変だから、逃げたんですよね?むしろ逆効果なんじゃ…」


「ふふっ、恋人はいないので、その心配は必要ありませんよ」


 見当違いだと言わんばかりに、クレイが口元に手を当てて笑い出す。


「……よかった」


 よかった、と小さく呟いた自分自身に、1番驚いた。なぜかほっとしたのだ。


「それって」


 おそらくクレイは、どういう意味だと問おうとしたのだろう。だが、その質問がなされる前に、別の人物からの質問が飛んできた。


「クレイ、やっと見つけたぞ。俺から逃げるなんてひどいな?」


 目の前に現れたのは、男性2人組だ。隣のクレイを見ると、額に手を当てたまま俯いている。


「この人たちは…」


「……………………………上司と、同僚です」


「さっき逃げたのって…」


「……………………………会ったら面倒だな、と」


 どうやら、さっき撒いたはずの人たちと、ばったり出会ってしまったらしい。すると、クレイに話しかけた人物が、わたしとクレイのちょうど真ん中を、じっと見ていることに気づいた。わたしたちの視線も自然とそちらに向く。


「っ!」


 手を繋いだままだったことに気づいたわたしたちは、瞬時に手を離したのだが、すでに時遅し。


「これは、ゆっくり話を聞かせてもらう必要があるな」



 ――どうやら、わたしたちに拒否権はないらしい。




お読みいただき、ありがとうございました!

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