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ゾンビが人間の血を欲しがるタイミングは、その人によって随分と差がある。と言っても、ゾンビ化してすぐというのあまりない。元々の自分の血があるからだって僕は思っている。
そもそも人間の血を欲しがるのは、ゾンビ化した誰かではなく、その微生物が欲しがっているだけだ。僕もそうだけど、思考能力のある脳は、そんな物には依存しない。普通の人間なら糖分を必要としているけれど、それすら必要ない。これは皮肉でしかないけれど、その微生物が血液内に存在している限り、全ての栄養は摂取することなく賄える。その微生物は、血中内で人間に必要なエネルギーを全て生み出すことができる。しかもそれは、人間に寄生している間だけであり、その他の生き物に寄生しているときは、その寄生している生き物に必要なエネルギーを生み出すことができる。
ゾンビ化は、ある意味では生き物の理想とも言えなくはない。
体内に流れる血液が足りなくなると人間を襲い出すと言う者もいるけれど、それは違う。人間の血は、生きている限り増えていく。通常の食事を取れば尚更だ。それならどうして人間の生き血を欲しがるのか? 単純に仲間を増やすためとも言われているけれど、僕の考えは違う。微生物は、人間を恨んでいる。全ての人間を敵視しているように感じられる。
実際にゾンビ化した人間以外の生き物は、明らかに人間だけを標的に襲いかかって来る。
タバコやお酒と同じで、ゾンビにとっての人間の血は、脳によってコントロールができる。覚醒剤とは違い、身体が欲しがるという表現は比喩でしかない。僕も僕の母親も、その衝動をコントロールしている。というか、僕に限ってかも知れないけれど、そんな衝動は湧いてこない。僕は他の人間と同じ食事を好んでいる。トマトジュースは飲むけれど、人間の血は好きじゃない。時々口の中に溢れ出て来る血は、とても美味しいとは言えない。臭くて気分が悪くなるほどだ。