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ベイビーゾンビ  作者: 林広正
62/131

62、


 今度の電車は空いていた。先頭で並んでいたら、やって来た電車の椅子にも座れた。後ろからはおじさんやおばさんが僕と妹を押し除けて笑顔で席を確保していたけれど、もっと後ろから入ってきても座れる人はいた。

 電車を降りるときに、驚くことがあった。

 僕と妹は、電車が駅に着いてドアが開いてから席を立つ。動いてる電車の中で歩いたり立ち上がったりするのが危険だってことはゾンビの子供だって承知している。その証拠は至る所に存在していた。僕の隣のおじさんは、もうすぐ目的の駅に着くとのアナウンスが聞こえるとすぐに立ち上がり、ドアの側まで歩いていく。電車の揺れでフラフラのそのおじさんは、立っている乗客に何度もぶつかっては悪態をついていた。危ねえなぁ! この電車揺れすぎなんだよ! 虚しいその言葉は、誰の耳にも届かない。僕の隣の空いた席に、慌てて座り込む人がいた。電車の揺れで足元が覚束ないまま倒れ込むように僕の隣に腰を下ろしたその人の腕が僕の肩にぶつかった。痛いっとの言葉は我慢したけれど、表情には出ていたと思う。僕がそんな表情でその人に顔を向けると、その人はチッと舌打ちをしながら、僕にぶつかった腕を、もう一つの手で払った。まるで汚いなにかを振り払うかのような態度を見せる。その人はきっと、言葉が喋れないのだろうと思う。もしくは、ごめんという概念が心に存在していない。

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