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そして芽生えた命だったけれど、僕たちは分かり合えることができなかった。そいつは母親からではなく、僕を通しての栄養がなければ生きてはいけない存在だった。母親とは臍の緒が繋がっておらず、僕のお尻の上辺りで繋がっていた。ちょうど臍の緒の裏側あたりから伸びた尻尾のようなものが、そいつの臍に繋がっていて、僕から栄養を取り込んでいたんだ。その証拠に僕には短い尻尾のようなものがお尻の少し上に今でも付いている。
母親からの栄養分は、基本的には一日分しか届かない。けれど、僕が求めれば母親は無意識に栄養分を与えてくれる。
そいつは、僕の栄養分を勝手に持っていく。僕には制御ができないし、そうすると僕は無意識に母親に栄養分を求めてしまう。
結果として僕は、母親を死へと追いやっていた。
誰の目から見てもやつれていく母親に対して、父親も心配をしていた。病院に行くようにと言われても、うんとは言わない。大丈夫だからと笑顔を見せる。
頑なに病院へ行くことを拒んでいた理由は分からない。母親の身体には、僕が知らない秘密があるのかも知れないけれど、それを知ることは今更難しい。これは僕の勘だけれど、父親だけは知っているのかも知れない。僕にまともな言葉があるのなら、いつか聞いてみようと思う。
僕はそいつに食らいついた。そうすることで母親を救えると考えたからだ。
食べると言ってもまだ、僕には口がない。そいつの成分を吸収する。母親から栄養分を吸収するのと同じ考えだったけれど、いざとなると、どうすればいいのかが分からない。
それでも僕がそいつを吸収できたのは、母親を救わなければとの思いが強かったからだ。そもそも僕は、母親がいなければ生きてはいけなかったし、産まれることもできなかった。それはそいつも同様なんだって当時は思っていたけれど、それは間違いなのかも知れない。
そいつは、きっと全てを飲み込んでいたと思う。実際に僕は、そいつを吸収してはいるけれど、こうして支配されている。そいつこそがゾンビ化させている微生物なんだと思う。そいつは僕に吸収されることにより、世界にその存在を示している。