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ゾンビは死なない。それは本当だ。人間の血がなくても生きていける。空腹はやってくるけれど、そのせいで餓死することはない。ただ、人の血がないと凶暴化する。アル中のようなものだと父親には言われる。我慢をすれば、人を襲わなくても平気なはず。みんながそんなゾンビになれれば、世界は平和になる。そう言いながら父親は、母親の手を握った。二人は一瞬だけ見つめ合った。そんな感じに見えたけれど、母親は、父親の頭に噛み付いた。もちろん甘噛みで。
人間の血が体内からなくなると、ゾンビは暴れ出す。まさにアル中状態だ。麻薬が切れたとも父親は表現する。僕でさえ暴れ出すことがある。そんなときの記憶は一切ないのだけれど。
母親が暴れたことは見たことがない。僕の前では見せないのか? 僕が暴れているときに一緒に暴れているのか? 暴れたゾンビがどうなるのかは知っている。ああはなりたくないと毎回願っている。僕の暴れ方はあそこまで酷くはないよと、父親には言われている。
奴らは見境なく噛みまくる。人間だけでなく、全ての生き物を標的にしている。どうしてそんなことをするのかは、誰にも分からない。仲間を増やそうとしているのか? そうとは感じられない。ゾンビ化した昆虫や植物は、人間を襲うことが多い。人間のように同じ種類の仲間を襲うことは少ない。普段から共食いをしている動物の場合ほど極端にその傾向がみられる。ゾンビ化するとどんな動物でも人間の血を欲しがるようになる。わざわざゾンビ化させている意味が分からない。ゾンビを無差別に増やすには効果的だけれど、ゾンビ化した動植物は、ゾンビ化した人間さえも見境なく襲っているから恐ろしい。