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ベイビーゾンビ  作者: 林広正
29/131

29、


 携帯電話を取り出した父親が連絡を取った相手は、僕のおじさんだ。父親の弟で、ミュージシャンだ。テレビではあまり見かけないけれど、ライブショウには多くのお客さんが集まる。レコードも出していて、それなりには売れている。音楽だけでも充分に食べていけるほどだ。

 けれどおじさんは、別の仕事もしている。それはきっと、父親と同じで、僕と僕の母親を守るためだと思われる。

 おじさんは役所で働いている。表向きは事務員だけれど、ゾンビを監視したり捕まえたりする仕事だ。世間ではゾンビハンターと呼ばれている。実態の把握されていない伝説の仕事だよ。ゼロゼロセブンのようなものだと父親は言うけれど、その意味が僕には分からない。

 テレビなどに映ったゾンビが翌日から姿を消すのはおじさんのようなゾンビハンターの仕業だとされている。

 電話で説明を受けたおじさんは、すぐに行動を起こしてくれた。

 おじさんが家に来るまでの間、僕はずっとゾンビアプリを開いて注視していた。母親が妹を生み出す様子も見守っていた。どちらも僕では力不足だけれど、やれることをやれる人がやるしかない。僕は母親の手をそっと、握った。

 その瞬間、母親が僕に顔を向けた。必死の形相で、睨んでいるようにも見えた。けれど、僕は確かに感じた。母親の微笑みを。

 家の周りを取り囲むゾンビが、一人二人と消えていく。おじさんが来たんだ! 僕の声を聞いた父親が、ちょっと出てくると言い残し、家を出て言った。その際、汗で一杯の母親のオデコをシャツの袖で拭い、そっとキスをした。

 僕は父親を見つめた。

 忘れてなんかいないよ。

 僕に向かってそう言うと、僕の頬にもキスをした。

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