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ゾンビは特殊な匂いを発する。臭くはなく、そこにゾンビがいても普通の臭覚では気が付かない。犬や豚にだって嗅ぎ分けられないほんの僅かなその匂いに、僕の父親は気がついた。
僕と母親と一緒にいたからこそ気がついたんだと思う。父親は、僕と母親がどこに隠れていても、すぐに見つけることができる。それが愛だなんて初めは思っていたらしい。けれど、他のゾンビがどこにいるのかも分かる自分に気がつき、その理由を研究した。父親は、学ぶことが大好きなんだ。いつも本や携帯電話でなにかを調べている。
特殊な匂いの正体は、特殊は成分にあった。ゾンビ菌は、人間の体内から生成されたガスを終始吐き出している。生き物にも自然にも一切害のないガスだけれど、ゾンビ菌にしか作ることのできないガスでもある。自然界には存在しない。今のところは人工的な生成も不可能とされている。
携帯電話には、そのゾンビガスを検知する機能が搭載されている。それによってアプリでのゾンビ検索が可能になっている。携帯電話の持ち主がゾンビ化したことも、ゾンビガスの濃度や検知時間によって特定される。
個人の情報は、ゾンビにとっては無意味だと考えられている。ゾンビはそもそも人間ではないというのが世界的な考えとされている。
携帯電話に登録されている個人の情報は、それぞれの国で管理されている。基本的には、携帯電話を通じて漏れることはない。ゾンビ化しない限りは。