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ベーシストの彼は、携帯電話の画面を見ながらお店に入ってくる。顔をあげればすぐに気がつくのに、そうしない姿は可愛らしい。
お店に入ってからも、店員に声をかけられても顔を上げない。そんな彼に対して、目の前の彼が大声で話しかける。
おい! こっちだよ!
大きなその声に、店中のみんなが振り向いた。まったく、恥ずかしいったらありゃしない。
あれ? タクヤさんも来てたんですか? ケンジさんのことで呼び出されたんですよね?
笑顔でそう言いながら彼の隣の席に座り込む。
なにしに来たんだよ! まさかこいつらの話を信じているのか?
信じるもなにも、ゾンビは嘘をつけないですからね。
そう言った直後に、ベーシストの彼は僕に顔を向ける。
あれ? ・・・・君だったんだね。久し振りだね。会えて嬉しいよ。僕はゾンビが大好きなんだ。噂では聞いていたけれど、本当だったんだね。
彼の言葉は意味不明だ。なにを言いたいのかが分からない。
あの・・・・ どういうこと? 私たちのこと知ってるの?
妹がそう言うと、ベーシストの彼はその目を輝かせた。