第6話
未だ何もしていないのに既に初期値から数倍は強くなっている。こんな簡単で良いのかと思うが恐らく私よりも圧倒的に強い筈の恐怖の権化が近くにいるから私はセーフと半ば現実逃避をする。シエルは、格好を元に戻すべく髪の長さや服を着替え始めた。(と言っても髪は何かしらの魔法で切って、服は異空間収納なのか、早着替えである。)
「あの、」
「どうかしたか?」
「些細な情報しか無いので役立てられるか微妙なところでは有るんですけど、先程召喚理由に戸惑っていたので。」
「ああ、その事か。今の時点では解けぬ疑問として処理したが何か有るのか?」
「あまり期待されると話しづらいですけど、私が聞いた話であればお伝えできます。」
「聞こう。」
曰くこの世界の召喚理由は魔族と人間族の諍いを止めるためだと言った。魔族はどんな手段も用いて、此方を滅ぼそうと画策しているため対抗手段として召喚を行ったこと。簡潔に聞いたことだけを取り敢えず伝えた。
「それで?」
「それで、とは?」
「エノの考えを聞こうと思っていたのだが。何やら腑に落ちぬ点が多々有るようだからな。」
「ええ、まあ。」
先ず種族について。人間族の王は確か三種類、人間族、魔族、亜人族と言った。が、それはシエルの存在により否定されている。実際は神族も存在する。
「後は精霊族も存在している。滅多に姿は見せぬが適合者には加護を授け、非常に強力な切り札となり得ると聞いた事がある。」
と、まあその時は分からなかった事なので疑問には思う訳が無かったのでこれは後付けになってしまうものだ。
「一番は言動と周囲に差異があった事ですかね。」
「と言うと。」
「他人に手を貸してほしいと思ってる程、困っている生活を送っている様に見えなかったんですよ。絢爛豪華な調度品の数々に私服を肥やしていると分かるような腹回りの贅肉。此方を舐めているとしか思えませんね。」
「ハハッ、酷い言い草だ。」
「そんなの見れば分かる状況にホイホイ付いていく事を決めるし。帰還方法が分からない状況でよくあんなに前向きにいられるのか不思議ですよ。」
「.....帰還方法に関して何も説明されてないのか?」
「はい、出来ないとだけ。それが何か.....?」
「それを聞いても尚、協力を受けた、か。」
考え込むシエルは十数秒後に顔を上げて溜息をつく。
「面倒だな、呪いの類か?」
「呪い、ですか。」
「職業『呪術師』。あの場に居たのだろう。後は『言霊使い』辺りか。先ず目標を殲滅なり、自分らの勝利に導くまでとプラスになる言葉を言霊使いが言った物を心の奥底からの願いだと呪術師が呪いを掛けた。触媒か何かがその場所には有っただろう。俺にはその場面に遭遇したわけでは無いからこれ以上は分からぬが。概ね間違い無いだろう。」
「そんな少しの情報だけで推測出来るんですね。」
「いや、エノが疑問に思わなかったらここまで推測は出来ない。まあ、ただ単に下らん正義感からという可能性もあるがな。俺にはさして興味が無いな。」
「私が冷静で居られたのは?」
「共鳴者故だ。唯のヒトに収まっている阿呆の呪術等聞くわけないだろう。」
当たり前だとでも言いたげな表情で返され、確かにそうだったと納得してしまう。
「さて、話すことも聞くことも終わったところで外に出るぞ。」
「まずはシエルの領域を抜けない事には魔物が居ないんですよね?」
「ああ、面倒だから境界付近まで転移を使って行こう。」
どういう事かを聞く暇なく目の前の景色が一変し、鬱蒼とする森の中に既に居た。
「大分長い年月誰も立ち入らなかったのか。後で整えれば良いか。」
辺りを見渡して独り言の様に言ったその言葉を黙って聞いていた。と言うよりかは突然の状況にぽかんとしてしまったというのが正しい。
「好きなように倒すと良い。流石に強すぎるからある程度一撃で倒せるくらいには弱らせてはやろう。」
「え、でも攻撃方法が。」
「難しいことをしようとしなければ今のエノの力で充分だ。どのように力を振るいたいか。それだけを考えれば良い。例えばだが『火事にはさせない様に明かりとなる為の小さな灯火を。』そう考え、自分でどれくらいなのか想像する。それだけだ。」
実際立てた人差し指からゆらゆらと小さな火が揺れている。明るいが周囲に気を遣った火である事が分かる。
「まあ、この森で最初から火を使うことはお勧めしない。」
「流石に分かってますよ。」
「なら良い。」
そう言ってから魔物を誘き寄せに森の奥に一人で入っていったシエルを見送り少し攻撃方法について模索していた。あーでもない、こーでもないとブツブツと言っていると小刻みに揺れを感じ次第に大きくなっていく地響きとその音に思わず立ち上がり警戒する。先ず顔を見せたのはシエル。その姿は血塗れだった。それに驚き、何かを言う前に地響きの正体が現れる。
「ほら、連れてきたぞ。一撃で仕留められるから何でもいい、攻撃しろ。」
「うう。こんなにいっぺんに連れてくるなんて聞いてないんですけどぉ。」
「言ってない。ほら文句言うな。」
いくら一撃で倒せるようにと戦いやすくされていても念には念を。安全の為、足止めとして土魔法で地盤を緩くして穴に落とす。這い上がって来ようとしたり上手く避けたのに関しては氷魔法で足を凍らす。空を飛ぶのは風魔法で羽を落とす。事前に考えていただけあってスムーズな動作を行えた。
「最後は。」
圧縮した水の光線を。土魔法を混ぜ殺傷能力が高いそれに全ての魔物は倒れ伏す。
「初めてにしては上出来だな。恐ろしいほど使い方を理解しそれに長けている。だが、」
「目的を半分達成出来ただけ良しとしませんか?」
原型を留めているのが少ない。そもそもの目的はレベル上げと素材の回収。レベルは上がった。
「これでは素材の回収など出来ないぞ。」
「倒すだけで精一杯ですって。」
「最初だし仕方ないで済ませてやるがもう少しコントロール出来るよう気を使ってくれ。」
「はぃ.....。」
素材を剥ぎ取りながら上手く素材も経験値も稼ぐ方法として色々と説明された。私は座って横目でその話を聞いているといつの間にか目の前に立っていた。
「っ!?」
「何故目を逸らしている?」
「血と解体の様子はちょっと気分が悪く.....なりそうだったので。」
「倒す時に血は出ていただろう?」
「その時は必死だったから。」
「成程。お前の世界は争い事は少なかったのか?」
「私の住んでいる世界の全てが穏やか、という訳では有りませんが私の住む場所は平和そのものでした。」
「平和、か。縁遠い言葉だ。」
この世界では大なり小なりの戦いは常日頃起きている事だと言う。戦いから逃げたものから死んでいく。そうやって一人、一人と死んでいくのを見ていった以上に自分でも多くを手に掛けたという。
「そう悲観せずとも良い。それにだ。今エノが生きているのはこの世界だ。順応しないと、死ぬぞ?」
「分かってます。けれど。」
一拍置き、深呼吸をして言う。
「解体だけは出来ません。取り敢えず今は。」
「........ああ.....。別に死体そのまま持ち込んでも問題は無いんだが。取り敢えず食べるとこを確保するためにやってるだけだ。必要性は無い。が、原型は留めてくれ。」
苦笑い気味に言われ恥ずかしい思いに駆られたがお天道様が真上に来る前に狩りは終わり街に向かう事になった。最初は血塗れになっていたシエルも手加減が分からず元々何の魔物だったか分からないくらいミンチにしてしまうという事をやっていたらしい。その返り血を大量に浴びていた故に真っ赤に染まった姿を遭遇してしまった訳だ。とはいえ、段々と慣れてきて全く血を浴びずに魔物を連れてくるようになっていった。一旦拠点(シエルの封印場所兼領地)に戻り格好を整えたりしようという事になった。
「エノの格好は悪目立ちするからこれを羽織れ。」
「あー、服持ってないんですよねー。」
「売って出来た金で好きなだけ買うといいだろう。」
「え、勿体ない。」
「まあ、そう思えるのも今だけだ。」
後はカモフラージュ用で小さめのショルダーバッグを渡される。異空間収納から出すのも目立つかもしれないとの事だった。使わないに越したことはない無いが念の為という心配性なのか色々と準備をしている。
「こんなもんか。」
「気にし過ぎだと思いますけど。」
「自分の力は過度に見せつけない事だ。相手に何をするかバレてしまうからな。無論のこと、返り討ちするだけの実力があれば問題ないのだがな。」
「気をつけまーす。」
「それでは手近な街に一気に向かおう。」
佐螺季 絵乃 異世界人
17歳 職:賢者 ランク:C
レベル:156
HP:38,211/38,211
MP:70,994/70,994
ステータス
STR:C+(+B)
VIT:B-(+B)
DEX:C(+B)
AGI:C-(+B)
INT:A(+B)
LUK:A+(+S)
スキル:
隠密IV 索敵Ⅴ 分析IV 鑑定Ⅴ 剣術Ⅰ 火魔法Ⅱ 水魔法IV 氷魔法Ⅴ 風魔法Ⅲ 土魔法Ⅴ 闇魔法Ⅰ 光魔法Ⅰ 異空間収納Ⅵ 危機察知Ⅴ
技能:
言語翻訳 成長率増加 不死 超回復力
称号:
異世界人 共鳴者(魔) 魔剣保持者 ミカエルの加護