第4話
「時間は停止された状態で保存されているから、新鮮なままだ。問題ない。」
「.........これは気分的な問題です。」
「大丈夫だ。どうにかなっても治すことなど容易だ。心配は要らぬ。」
「その考え自体が危ない事を示している気が....。」
シエルの異空間収納に食べ物(調理済みも含めて)があるという事で出しては貰ったが賞味期限とか消費期限とかその辺が心配で躊躇っていた。が、異空間収納は特別らしく入れた状態そのままが保持されると言う。とは言えずっと封印されていたのだからそれは想像もつかない長い年月入っていたというのを考えてしまうとちょっと不安になってしまう。
「別に食べぬと言うのなら無理強いはしない。そのまま出しておけば時間だけ経過し腐っていってしまうからな。」
「い、いいえ。ありがたく頂きます。」
匂い、見た目は大丈夫そう。だったら後は覚悟を決めるだけ。口に入れ、その瞬間目を見開く。
「お、美味しい。」
「だから言っただろう? 大丈夫だと。」
「大丈夫だと言ってる当人が食べないでいるから余計不安だったんですよ。」
異世界の初めて食べる味に舌鼓をうちながら、特に意識せず軽い気持ちで言った。
「俺は.....食べる必要は無いからな。」
「?......あ、すみません。私何か触れちゃいけないとこに触ってしまいましたか?」
「そうだと分かったなら本人に聞かない質問だと思うのだが? 別に聞いてはいけない事というのは無い。聞かれたところで詰まらない解答が返ってくるだけだ。それでは、気不味くなるだけだろう。」
「ふーん。」
暫く静かに食べていたが独り言だったのだろう。シエルがボソボソと何かを言い始めた。目を瞑ったまま考えを纏めている様だった。
「それにしても召喚か。行う意味は? それにここからでも強大な力など感知しないがどういった意味で実施に至ったのだ。人族は何に怯えている? 驚異であった俺は数百年以上封印されあ奴ら人族の寿命からして、脅威としての考えはとうに忘れられているだろう。」
時たま唸りながら首を傾げ見た目らしくない行動を取っている。食べながらじーっと見ているとこちらの視線に気付き顔を上げる。
「どうかしたか?」
「いえ、特には。」
「取り敢えず、だ。現状エノ、お前のレベルは低すぎる。レベルとステータス、スキルを上げていく。」
「ふぁい。」
シエルが言うにはここは力を付けるのに最適だと言う。何だかんだ言って手助けをしてくれることになっている状況にクスリと笑みを浮かべてしまう。
「何を笑っているんだ?」
「いいえ。」
「まあ、いい。エノ、俺の異空間収納の食べ物が嫌だと言うのであれば狩った魔物を食らうと良い。食べれんのもいるが基本的には火を通せば口に入れても問題ない魔物ばかりだ。...........食べることで得られる恩恵もあるしな。」
シエルは最後に何かをぼそっと言ったような気がしたが聞こえなかったので話の腰を折らないように会話を続ける。
「魔物を食べると言うのも何とも抵抗ありますけど。シエル、調理道具とか有りますか?」
「ふむ。ある事にはあるが。焼いたものに適当に味を付ければ済む話では無いか?」
「そこは拘りたいんですよ。元々いた世界の料理は味付けがこんなに薄くないんです。食べた事が無い味という意味では、美味しいには美味しいんですけどね。もう少し美味しくも出来そうだな、と。」
そう薄味だった。食べたことの無い味と見た目に感動はしたがよく味わって食べようとすると薄くて何とも言えない気分になる。
「そうなのか。それでは先ずは調味料が必要になるか。少しばかり魔物を狩って素材を売ってある程度必要なものを揃えてから鍛えるとするか。とは言え。」
「どうしました?」
「時間的に外へ出るのは危険だと思っただけだ。俺では無く、エノが、だが。」
「え? こんなに明るいですけど。」
「ここは特別な空間だ。だから外の空間とは遮断されている。俺が作り上げた空間だからな。」
「つく、えっ?」
「元々の俺の住処がこの辺りだったのだ。それを突き破られて封印された。建物等は少しづつ朽ち果てた。実際に今は夜だ。」
この辺りといった。森の中はずっと明るかった。そう、数時間は歩いていた筈なのに。召喚当時は何時くらいだったのだろう。明るかったからここに来て明るいことに疑問を抱かなかったのかもしれない。
混乱している様子の私にクスクスと面白そうに笑って指を一つ鳴らすと空の様子が一変する。辺りは真っ暗闇。だけど沢山の星が瞬き、明るい月の光が差し込んでくる。
「実際はもう夜も更けている時間だ。どうだ? 驚いたか?」
「はい。とても綺麗です。」
「素直な感想も言えるのだな。」
「私は人間です。感性くらい持ち合わせてますよ。」
ムッとして言うと楽しそうにフフッと笑われて終わってしまった。星空をじっと見ていると近くの茂みからガサッと音が鳴る。思わずビクッと反応をしてしまう。
「唯の風だ。」
「分かってます!」
思わず強く言葉を返してしまう。暗い所は怖い。自分が一人だと知らされている様で。ガタガタと震えが襲ってくる。意識して止めようにも意識すればする程恐怖が増してくる。
「大丈夫だ。此処にはエノの害す物は何も無い。それは一番お前が自覚していると思うが?」
「.......っ。」
「お前は涙脆いな。人らしいな.......羨ましい。」
「え?」
シエルは小声で何かを言った。何とは詳しく聞かなかった。悲しそうな顔をして笑っていたから。そんな夜を過ごし安らぎを感じたままいつの間にか眠っていたのだった。