第2話
「っ! ここは?」
森の中、というのは分かる。だけどそれ以上は何も言葉がでない景色だ。
「はあ、要らない、かぁ。勝手に呼んでおいてそれは無いと思うんだけど。こっちの事情は無視だし。きな臭いとは思ってたけどこんな形で当たるとは思わなかった。」
森の中で思わず独り言を言ってしまうほどに呆れてしまっていた。何を言ったところで状況が変化するわけでも無いからという諦めも混じっていたかもしれない。
「このまま私はこの知らない場所で誰にも知られずにゲームオーバーで人生終了か。取り敢えずさっき貰ったステータスプレートをもう一回見て何か出来ることでも探そうかな。職業しか聞かれなくて他のところは見れなかったし。」
佐螺季 絵乃 異世界人
17歳 職:回復師 ランク:G
レベル:1
HP:20/20
MP:30/30
ステータス
STR:G-
VIT:G-
DEX:G+
AGI:G-
INT:D+
LUK:F+
スキル:
技能:
言語翻訳
称号:
異世界人 共鳴者(魔)
「.........まあ、私と彼らの認識が一緒であれば追い出されて当然の結果か。」
一つだけ称号の『共鳴者』は意味が分からないが、考えても知ることは出来ない。取り敢えず、立ち止まっていても何も始まらないのでテキトウに歩き出す。どうせ出口なんて無い鬼畜なところに落とされた筈だろうから今更何処に行こうが問題ない。
そう思って歩いていたのだが全く何も起こらない。異世界ならではの魔物とかの遭遇で死亡、ゲームオーバーかと思いきや意外と生き長らえている。
「.........まさか安全な場所に落とすわけあるまいし。」
うーんと唸りながらも、怪しみながら歩みを進めていると急に開けた場所に出る。空からの光も今までの鬱蒼とした森の中とは違い暖かみを感じる程に眩い光が差し込まれていた。
「何か空気が変わった気がする。」
またも誰に言うでもない独り言を呟くと周囲をキョロキョロと見渡す。そうすると段々と明るい光に慣れてきた瞳にあるものが映し出される。
それに惹き付けられるように迷わず進む。
目の前まで着き、じっと観察する。
明らかに白い大理石の様な石、つまりこの森には相応しくない人工物であろう石材でそれは立派な玉座の様相を呈していた。勿論玉座には座るものはいてこそだろう。イメージ通りの偉い人が座るという役割を果たすが如くそこには人が座っていた。
しかし、生気を感じない。それもそのはずで、石材と似た色合いに全身が白く覆われているからだ。だが、一番に特徴的なのは手足に刺さった短剣と胸元に一際大きい剣が突き立てられている。その剣が何かしらを齎しているのか人を象っているそれはその大きな剣にのみ手を伸ばしかけている。まるで直前に剣を抜こうとしたが叶わなかったという感じだろうか。
「それにしても短剣の方は明らかに錆びているというか切れ味が明らかに落ちてそうだけど。」
そう、胸元に刺さっている剣だけは未だ輝きを保っている。輝きと言っても陽の光の反射でそう見えているだけなのかもしれないがなまくらには見えない様相だった。
「例えるなら聖剣によって封印された魔王。聖剣は未だ輝きを失わず役割を担っている〜とかそんな感じかな、ハハハ、異世界ならありそうだわ〜。」
テキトーに言ってみて自分で馬鹿らしくなる。
「取り敢えず定番と言えば勇者にしか聖剣は扱えないって言う所かなー。」
そう聖剣とか魔王とか設定から全て定番だと思い込んでいた。だから何の気なしに剣の柄を掴んで試しに引っ張ってみてしまった。自分は勇者では無いのだから抜ける筈も無いと思って。
「あ。」
抵抗なく剣はするりと抜けた。
「え、ちょ、やば。これ絶対抜いちゃダメだった奴でしょ!? 戻す! 戻すからー!!」
再び刺さった位置に戻そうと我に返ってから動き始めたものの時すでに遅し。パリパリという音を立てて人間と思わしき形を取っていた石が、というより表面上に付いていた物が剥がれ落ちていく。それに見蕩れて剣を下げる。
全てが剥がれ落ちるまでにそう時間はかからなかったと思う。
銀の長髪、それをじっとみていたら瞼が震え少しづつ目が開かれる。その瞳は燻んだ灰色。
そしてそれと、ぱっと目が合う。
「.........。」
「.........。」
お互い何も発さないのでシーンと静寂に包まれる。今までの厳かな雰囲気の静寂とは違う、気まずい感じの静寂。
「お前が。」
「え?」
「.........そうか。ならば堕ちるが良い。我の思い通りにしていれば辛い事など感じる事ない楽な生き方が出来るからな。」
そう言われると急に頭を打ったかのような強い痛みが生じて膝を折り、そのまま頭を抱えて倒れ込む。
「うぅ。」
「何故逆らう? 身を委ねた方が楽になれるぞ?」
「.....っ、........っ!」
「何?」
椅子に座ったままふんぞり返り私が苦しむ様を見て笑顔を浮かべるそれを睨む。そして、途切れ途切れで言葉を発する。
「私はっ、こんな所で死ぬ訳にはっ!」
「別に死ぬ訳では無い。ただお前の意思が表面上消えるだけだ。」
「それはっ、死んでるのと同義だっ。」
「ふむ、その考えは無かったな。それもひとつ、か。だが、お前に掛かっているその術は自分で抗うしか解くことは出来ない。」
「っ!?」
「当たり前だろう? 我が相手に情けなど掛ける術を施さん。それに、だ。自らが成し得たいことが有るならば自力で足掻いて見せろ。」
嘲笑するそれに憎しみを込めて睨むが涼しい顔をして楽しそうに私を見ている。未だ痛みが収まらない状態で、もがいていると急に体が光り始める。その光は笑っていたそれにも波及すると、表情を一転させ、笑みを崩す。そして、溜息を吐いて呆れた顔になるのが見えたのを最後に意識を失った。