第1話
至って普通の高校生活を送っていた。
誰がこんな事態に巻き込まれるなんて予想出来ただろう。
数分前までは普通に教室に居たはず。
足元に現代ではまず見ないであろう魔法陣と呼ぶに相応しい物が現れたと思った瞬間光が強くなる。あまりの眩しさに周囲の喧騒を聞きながら目を瞑る。
そうして、誰もが突然の景色の変化と今の状況に困惑している。
荘厳な威厳のある大きい部屋の中にいる。白で統一されたこの場所は明らかに日本では見ないような建築物であることは明らかであった。そして地球に居るのかと思えないような怪しい思想でもあるのか足元には数分前に見た物と似た魔法陣の様な円が描かれている。
30数人位の周囲にいる人々は私と同じクラスメイト。困惑の声から怒号へと変わるのもそう遅くなかった。秩序が無くなりつつあり騒がしくなってきたこの場に相応しくない音が鳴り響く。
大きな扉が押されゴゴゴと重い音を立てて唯一の出口であり、入口が開いていく。どうしても若干暗いとこに居たせいか開いた扉から差す光を眩しく感じる。
「成功しましたね!」
「ええ、良かった。」
一人は騎士の格好をした女性。もう一人はドレスを纏った女性がホッと胸を撫で下ろしている。
「姫様、皆様困惑されています。説明をするのに王様に報告へ参りましょう。」
「そうでしたね。皆様申し訳ありませんが今回に関して父である王より説明させて頂きます。ご案内しますのでこちらへどうぞ。」
案内されるまま見たことも無い装飾が施された城内と思わしき場所をキョロキョロと見渡しながら歩く。
「作法等は異世界の皆様方にはお求めにはなりませんが出来るだけ静かに話を聞いて下さると助かります。」
先程騎士の格好の女から姫と呼ばれた女性は言う。
「おお! 遂に成功したか!」
「はい。彼らが異世界より遣わされた勇者様方です。」
「皆、困惑している事であろう。儂から経緯について詳しく説明しよう。」
曰くこの世界には人間族(略して人族とも言うらしい)、亜人族、魔族の三つの種族がいる。そして幾年もの間、魔族とは争い関係にあると言う。
魔族は人間族より遥かに魔力の内包量が多く、魔法を使うに長けていると言う。最初は質より量、技術力によって人間族も均衡していた。
しかし、魔族に強力なリーダー、所謂、王という立場(魔王と呼んでいるそう)が現れ均衡は一転し形勢が苦しくなってきた。そこで古代より人間族に伝わる《勇者召喚の儀》で私たちが呼ばれたという。
この儀式で呼ばれると異世界に渡る為に魂に祝福がされるためこの世界の住人より高い能力を秘めている、もしくは持っているらしい。
何とも都合のいい話ではある。
「とはいえ、いきなり戦場に出すという訳にも行かないからな。皆のステータスを確認してからそれぞれにあった訓練を受けさせよう。」
「待って下さい。確認したいことがあります。」
待ったをかけたのはクラスの纏め役でリーダーシップを常に取ってきた男子生徒、皇光希。
「確認したいこととは?」
「元の世界に戻るという選択肢は無いのでしょうか?」
「.....それはこの世界を見捨てる、と言う認識で良いのかな?」
「いえ、困っている人を見捨てるという選択肢は僕の中ではありません。だけど、戦いたく無い者にまで強要はしたくないので聞いているのです。その人達だけでも元の世界に返せないのかと。」
「そういう事か。答えは儂達では不可能だ。だが儂も強制はしたくない。嫌であればせめて不自由のない生活を確約しよう。ただ訓練は受けてもらうが。」
「皆、勝手に決めてごめん。僕は彼らに力を貸そうと思うよ。みんなはどうしたいか聞いてもいいかな。」
シーンと静まり返った後、それぞれが皇君に従うことを声に出している。私は後方にいたので声に出さずとも怪しむ人はいなかった。いや、寧ろ私を気にかける人なんて今の興奮している状況の中ではいるはずも無い。
というより、私はこの状況に違和感を感じる。本当に苦しい状況なのだろうか。私腹を肥やしたとしか思えない金のかかってそうな装飾の数々。何より自分たちの命運を訳も分からない第三者に丸投げするか、普通。自分達で努力しようとしないのか。
そう悶々と考えているとそれぞれに一枚の薄い板が配られる。
「それはステータスプレート。それで自分の能力が確認出来る。分かったものは名乗りを上げてくれ。」
徐々に文字が勝手に浮き上がる。便利だな、これ。と思って見ていると最初に配られた人達から職業なるものを王様に報告している姿が見え、それを言った人から近くに控えていた兵士たちが王の指示の元どこかへ案内され一人、また一人とこの場から去っていく。
「お主はなんであった?」
「ああ、私ですか。」
もう残っているのは私くらいでこの場を後にしようとしているものしかいなかった。
「私は.........『回復師』.....?」
「..........。」
「?」
「案内に従って今日は休んでくれ。」
「は、はあ。」
特に私に関しては一言も無くとっとと居なくなれと威圧しているさえしている気がした。取り敢えずどうすることもできない状態なので今は従うしか無い。兵士に黙って付いて歩く..........、数十分も。
「えっと、皆もこんな遠くまで来たんですか?」
「...........。」
無視。喋れないのかと悪態を吐きそうになったが我慢していると一つの扉の前で止まって私を中に入るよう促す。渋々従い、中に入ると真っ暗の部屋に壁掛けの松明がゆらゆらと揺れる如何にもという最初の召喚された部屋以上に怪しげな場所だった。
「何、ここ?」
「来たか。」
「王様?」
「こっちへ来てくれ。」
部屋の中央に大きな扉が置かれている。中が見えない、その大扉は部屋の中央に鎮座し不気味な雰囲気を漂わせている。
「何でしょ......っ!?」
「お主はこの召喚には要らぬ者だった。皆にはお主は反逆しここを出ていってしまったとでも言いくるめて置こう。」
大扉の方に近づいて歩いて行った瞬間、後ろからドンと背中を押され暗闇へと落ちていった。その瞬間王様の声が聞こえたが何が何やら分からぬまま暗転した。