幸福の分岐点
それからも何度か、運び屋が変わり…。今は、若い乳母のおっぱいを我武者羅に飲む。まったく男どもは、赤子の食事も、排泄物も、体調も…何も考えていない。そのうち赤子の屍を運ぶことになるぞっ!? と、怒りを泣き声でぶちまけていたところだった。
現在は、体を綺麗に拭かれ、温かい服と、振動の少ない馬車で移動中だ。この乳母は、エイラと言ったか?
(お前は、殺さずに、生かしておいてやろう)
満腹になった私は、急激な眠さに襲われ…意識を手放した。
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「父上、この子が、妹になるのですか?」
「そうだ。お前の妹のセーラだ」
(名前など、どうでも良い)
周囲を見回す。部屋の大きさや、装飾品、家族の衣服を見る。生活水準は、そこらの平民よりも良い暮らしをしていそうだが…。何故? この家族が、私を引き取ったのかが、まったく不明だ。
「何もかも小さいです。でも…髪も瞳も銀色です」
このガキは…5、6歳かな。その年齢で、その話し方…。やはり教育を受けさせられる余裕のある家なのだろう。そうだよ。お前らの青い髪と瞳の色とは異なる。血が繋がってないんだよ?
「うん。流石は我が子。ラークの言う通り、この子は、お父さんとお母さん…ラークとも血が繋がっていない。それはね。お母さんの体が弱っていて、もう子供が産めない。だから…毎日、街の何処かで捨てられている…子供を保護している孤児院から、引き取ってきたんだ。ラーク。例え、血が繋がっていなくても、心から…愛し合えば、それは家族だ。実を言うと、お父さんも、捨て子だったんだよ。だけど、ほら、今では、こんなに素晴らしい家族に恵まれているだろう?」
「はい。僕もお父さんみたいに立派な家族を作りたいです」
「そうか、そうか…」
(神様なんていないだろう? もし存在していたら、私を…こんなお花畑な家族に預けないだろうよ)
「旦那様。奥様が目を覚まされました」
(おぉ、エイラ。この家の者だったか。お前の乳は美味かったぞ!)
「よし、お母さんもセーラを見たくて、ウズウズしているはずだ」
エイラに抱かれ、会いたくもないお母さんとやらに、会いに行くことになった。
(ここは笑顔だな。今度も上手に笑えると良いな)
本当に病弱なのだろう。まるで生気が感じられず、今にも死にそうなお母さんとやらが、先にニッコリと笑った。
「まぁ…。天使のようだわ…」
エイラは、お母さんとやらの上半身を起こすと、私をお母さんとやらの腕の中に置く。
(まぁ…悪い感じはしないな。体が自由に動けば、こんなに苦しませずに早く殺して…楽にしてやれるのに…)
私もニッコリと笑い。死にゆくお母さんとやらに、最初で最後の挨拶をした。父親とラークは、そんな私達を…そっと見守っていた。