戦場に立つ少女
前線の舞台となった都市から数百kmも離れた森林の中に、前哨基地が設けられたいた。その中にある天幕の一つに11歳になったセーラが、とある小国が保持する傭兵団の分隊長という立場で、半壊した部隊の治療に当たっていた。
「はぁ、はぁ、すいませ…ん。セーラ…」
「黙っていろ! これを飲んで、少し眠れ…」
薬草師の記憶を頼りに、森林に生息する毒キノコから幻覚作用のあるエキスを抽出し飲ませた。心臓が鼓動する度に吹き飛んだ右太ももから出血する…部下の苦しみと痛みを和らげてやりたかった。
12名から構成される部隊の5名は、敵軍の工作部隊と激突した際に命を落とした。他の分隊の加勢もあり、同数程度の敵軍工作部隊と対等以上に戦うことが出来たが、壊滅を悟った工作部隊は、運搬中であった大量の火薬に引火させた。
爆風により焼かれた者、はじけ飛んだ木片が突き刺さった者など、即死を免れた者も…前哨基地へ到着する前に、命を落とし…今、目の前でまた部下が短い生涯を終えようとしていた。
「セーラ分隊長、マーク中隊長がお呼びだ」
一等兵や少佐などの階級呼称ではなく、率いる部隊の名称で呼ばれる。
(上官である小隊長を通り越して、中隊長からの呼び出しとは…。分隊を半壊させた責任を取り、降格または、簡略化された軍法会議にかけられ…性欲処理の道具として使われて…死刑か…)
「顔色が悪いぞ、セーラ分隊長…」
同期であるハンズ分隊長の手が肩に触れると、思わずビクッと全身を震わせてしまった。高身長のハンズ分隊長を見上げた顔が、あまりにも酷かったのか、気まずい雰囲気になる。
「か、考え事をしていて…」
「あぁ、こっちこそ…。だが、セーラ分隊長が考えているような…ことにはならんと思うぞ」
その言葉がどのような意味なのか、考えているうちに、本前哨基地の最高責任者であるマーク中隊長の専用天幕の前にたどり着き、ハンズ分隊長に微笑みかけた。
天幕の中には、マーク中隊長と、その右腕と呼ばれるエレン小隊長が待っていた。この二人は、11歳の少女である私に、分隊を率いる小隊長への昇格を告げたのだ。
「わ、私がですか? 恐れ入りますが、分隊を壊滅さた情報が伝わっていないのでしょうか?」
「勿論、正確に情報は伝わっている」
「ならば…」
「説明が必用なのな? まぁ、よい。君とは話がしたいと思っていたのだ。君は12歳の少女というハンデを背負いながらも、自らの体を売ることもなく、実力のみで輝かしい戦果を上げてきた」
ドサッと、『調査レポート:セーラ』と書かれた資料がテーブルに置かれた。
「極めて練度の高い剣術。衛生兵としても活躍できる、薬剤官以上の知識。優れた索敵や罠の設置および解除の技術。部下を引きつける歌の才能。それに高い知性と教養。君は一体、何物なのだ?」
「何者と言われても…。幼い頃に傭兵に誘拐され育てられただけとしか…」
「そうだったな。嫌なことを思い出させてしまったな」
「いいえ」
「とは言っても、小隊長の役目はしっかりと努めてもらうぞ。君の分隊は解散し、アモットとバートの分隊に吸収させ、その2個分隊を君に任せる」
天幕を出たセーラは、夕食の時間が終わり静まり返る広場を歩く。
この前哨基地は、敵軍が前線で防衛する自軍の背後を突くために、通過しなければならないルート上にある。簡単に言えば、敵感知のための捨て駒であり、ちょっとした時間稼ぎの罠にしか過ぎないのだ。




