新しい心
小さな小国ホースティンにある人里離れた切り立った断崖、そこに掘られた洞窟を抜けると、巨大な空間が広がる。その中に建造された古城こそが、死の標的の本拠地だ。
構成員の中で、神具を保有している者が、最高幹部達。
実力主義ではなく年功序列の組織の中で、一番年下の【警告の鎖】のワニーチェンは、ハイシンク国国王の隠し子フォタムを連れ帰る命令を受けていた。
円卓には、最高幹部5人が座る。その中でも最高権力を持つ白髪の老人が、労いの言葉を述べると、幹部会議が始まる。
「よくぞ連れて帰った」
「早速だが、アレは駄目だ。心が壊れている」と、【警告の鎖】のワニーチェン。
「暗殺者だからこそ心が重要だ。それは此処いる誰もが理解っている。そんなことより、どう育てるかだ」
「愚か者め。アレに力を与えれば、視界に入る全ての命を狩り尽くす殺戮者になりかねんぞ?」
「私に任せてくれませんか?」
「ライライブよ。【命の天秤】を使うのか? しかし、アレは貴様の人体実験に使わせる気はない」
「まだ何も説明していませんが?」
「ふんっ。どうせ反吐が出るような話なんじゃろ?」
「待て。話してみろ」
「はい。アレの中に、もう一つの新しい人格を入れ中和します」
「その新たに作り出した人格が、暗殺者に向いていると、どうして言えるのじゃ?」
「アレの特徴と言えば。相手をひれ伏せるためには、心にもないことを嘘も方便とばかりに平然と述べるのです。その内面は、自己正義の塊であり、他人と共感することもなく、完全な自己中心です。そこにたどり着くために結果至上主義で動く。例えば、良心の呵責も無く、平然と他人を利用するのは当たり前だと考えています。しかし、常に刺激を求め、誰かに自慢したがる性格により、その本質に気が付く前に交友関係は破綻するか、殺されているかです。
そこに入れるのは、忠誠心の塊の人格。どんなに狂っていようと、命令に従っていれば、問題ないのですから」
「新しい人格は、何処の誰なのですか?」
「はい。娘のアリーナです」
「馬鹿な…。自分の娘を!?」
「はい。既に話を終え、彼女自身も納得しています。許可を頂けるのなら、明日にもアレの人格と融合させる術式を執行可能ですが?」
全員が白髪の老人に注目する。
「うむ。アレの件は、ライライブに一任する。計画及び結果は、この会議で必ず報告するように」
「はい。必ず…」
「では、次の議題だ。新しい暗殺の依頼が…」
このようにして、私の知らない間に、とんでもない計画が仕組まれていくのだった。