招かれざる何か
いつもの感情が死滅した瞳ではなく、殺意のこもった視線を感じたのか、レイナが恐怖に怯える。
「わ、私は…貴方の言う通りにしただけよ…。お、お願い…殺さないで…」
(なるほど。殺すのも手か…)
何も言わずに、レイナの家を出る。外は、夏祭りの準備で慌ただしく人が往来していた。
父親のライズと一緒にいると殺意が芽生えるため、昼は商業地区にある盗賊団が経営する店舗で、昼寝をすることにしている。まぁ、婚約騒動中は、ライズから「何処にも行くな」と言われていたので、2日ぶりなのだが。
「ラークさんの婚約おめでとうございます」
「だみゃれ。ころしゅぞ?」[黙れ。殺すぞ?]
盗賊団の情報によると、ラークの政略結婚は、私という悪魔の子がいるために、有力な商人たちから、断られていたらしい。そこにレイナとの危険な情事の発覚…ちなみに、レイナの父は、だだの鍛冶棟梁だ。婚姻を諦めていたライズにしても、本音は誰でも良かったのだろう。
そうなると、当然、夏祭りの夜は、お兄ぃとレイナで出掛けることになる。勿論、私も誘われたが、人が多い場所は苦手だと言って、家で留守番することにした。
今夜…人外が街を襲うのだが、お兄ぃは大丈夫だろうか? 少し心配だ。
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何やら楽しそうな曲が街に流れ始めると、祭りように設置されたランプに火が灯り始める。
盗賊団『荒野の墓』の数人は、対人外の結界を張る要石に、革袋にたっぷりと入った動物の生き血をかけて、結界を無効化する。約300m間隔で設置された6個の要石が対象だ。つまり約2kmの結界が消えたということだ。
日が沈むと共に活動が活発になる人外は、人の血を求めて街に現れる。そして、必ず…結界が消えたこの場所を見つけ出し、街に雪崩込んでくるだろう。
「お、俺たち…。やっちゃならねぇ…ことを…しちまったんじゃねぇか?」
「姫の命令には逆らえん」
「諦めろ。それより、次の計画だ」
盗賊団『荒野の墓』の56名の構成員は、フレーダ荘園へ侵入するチームと、街で略奪するチームに別れ、夏祭りで溢れかえる人混みの中に消えていった。
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最初の犠牲者は、女児であった。街外れの結界付近で下着を下ろし、用を足す女児の目の前に、体毛は抜け落ち、肌は爛れ、目玉が飛び出そうになっている化物が、近付いて来た。
それも、最も残忍な人外である…殺戮者がだ。
濡れた地面に恐怖でしゃがみ込んだ女児の肩と頭部に、めり込むほどの爪を立てて、鷲掴みにすると、頭部をねじ切り、滴り落ちる血を飲み始める。
その血の香りに誘われたのか、集団で行動する人外である追跡者が、7体ほど街に入り込み、薄暗い通路にいた人間を襲い始めた。
祭りの喧騒は、人外に教われ泣き叫ぶ声をかき消した。気分が高揚し屋台に注目があまり、道端で誰かが倒れていても、誰にも気付かれない。全てが人外に都合が良く、襲われた人間にとっては不運でしか無かった。




