街に潜む化物達
家に帰ると、お兄ぃに泣きつかれる。誘拐されたけど逃げてきたと正直に話す。家の中で誘拐されたのか? という質問には、覚えていないと答えておいた。
汗もかき、焦げ臭く、貧民街の臭いも染み付いたワンピースを脱ぐ。
腰回りと太ももに固定した痺れ薬の小瓶を2本、携帯用小型ナイフ、携帯用発光玉、小袋の火薬、着火道具を外す。携帯用発光玉、小袋の火薬は補充済みだ。それらをベッドの下に隠し、最後に下着を脱ぐ。
木製の大きなたらいに、水を張って待っていたお兄ぃへ、裸をアピールしつつ、たらいに入る。夏であるが、井戸水なので、そこそこ冷たかった。
体を綺麗に洗われていると…体力の限界なのか、いつの間にか寝てしまった。目が覚めると、驚くことに夕方だった。
『五芒星と呼ばれる組織に所属することになる』か…。何者か知らないがフレーダ荘園を滅ぼしても、王族に保護されても、行き着く先は、五芒星なのか? そう考えると、全ての行動が無駄な気がしてきた。でも、誰かに命令されるのは好きではない。
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オーデルの西側最大の荘園主であるフレーダ男爵が、珍しく苛立っていた。
「今年も献上金を増額しろだと!? どれ程生産者に負担をかけていると思っているのだ!!」
「お言葉にお気をつけなされ。我が主であるワニーチェン様が、新しい別荘をご所望ですので」
「べ、別荘だと!? そ、そんなことのために…」
現在でこそ、最大の荘園主となったフレーダ男爵であるが、10年前まで只の生産者であった。生産の腕を磨くのでは無く、上位の生産者たちを暗殺することで、のし上がったのだ。
そう、死の標的・【警告の鎖】のワニーチェンの力を借りて…。
「貴方のような人間の屑が、生産者に負担とか…。やれやれ、我が主のおかげで、その地位にいるのをお忘れかな?」
「わ、わかった…。だ、だが…。このまま天候が良好で、豊作の場合だ!!」
スッ…。
フレーダ男爵の太ももに、アイスピックが刺さる。
「馬鹿も休み休み言いたまえ。我が主が一度、口に出した言葉だぞ? 変更はない」
通称バーテンダー。その名の通りバーテンダーの格好をした男であり、殺戮者である。常連客の他愛もない愚痴を聞き、その対象を殺す。そして、次回、来店した際に…その驚きと喜びや悲しみを告げる客に異常なまで興奮する奇人である。
この男は、狂っているのだ。そして、その主は…もっと。こんな連中に関わってしまったために…。
防音効果のある応接間から出て行く、バーテンダーの後ろ姿を見送りながら、後悔の念に駆られるフレーダ男爵であった。
「くくくっ。相変わらず、血の匂いをプンプンさせる臭い奴だね。彼は、五芒星に選ばれなかった自分の才能の無さに絶望しているのさ。そう、愚かにも、私達に嫉妬しているのさ」
フレーダ男爵が座るソファーの後ろに、もう一人の怪物がいた。探求結社・【隣の部屋】のルーマーであった。彼の存在は、バーテンダーでさえ認識できなかった。
「最近、セーラは、やんちゃになってきたらしいわね?」
「は、はい…。数名を殺害し…盗賊を手なづけています…」




