無差別攻撃
さて、3歳児になり暗殺家業を再開した私は、例の商人について調査を始める。商談中に資料を盗み見て、商談が終われば尾行して…。誰もが3歳児に大人の知能があるとは思わないはずだ。慌てずじっくりと、時間をかけて男の正体を調べる。
その男の正体は、街外れにある荘園の主に仕える若い執事であった。荘園か…。という事は、そこそこの実力者なのだろから…貴族や王族と繋がりが有るのだろう…。男の出入りする屋敷は、途轍もなく大きく、出入りする人物も、農民、商人、役人、護衛などなど、3歳児が全てを調べるのは不可能な規模である…。
ターゲットの男のみを殺した場合と、荘園の主…まぁ、ここで言えば、このドデカイお屋敷に無差別攻撃を仕掛けるのは…どちらが良いのか…。
メリットとデメリットは、正直…把握しようがない。ならば、どちらが簡単なのか? それは…無差別攻撃です。
運が良いことに、この屋敷は、街の外れにある。という事は、人外の結界を壊せば、自動的にこの屋敷が攻撃される…。まぁ、運が悪ければ、街全体が人外に蹂躙されてしまうのだが…。
(それは、それで…)
街の外で、結界の要石を調べる。古いタイプの要石だ。一応、要石は、簡単に盗まれないように地中深くで固定されているし、分厚い鉄で覆われているため破壊することも不可能だ。
私が貴族だった頃に受けた教育の中で、要石についての授業があった。この要石の中には、捕食者、追跡者、殺戮者の生き血と聖水が混ぜられてた液体が入っているらしい。そんなので人外が逃げる理屈が理解らないが、実際にこれで街が守られているのだ。
そして、盗賊のときの記憶には、この要石を無効にする…テクニックがあった。それは…動物の生き血を要石にかけるという簡単な方法だ。この方法は…稀代の大盗賊・青影のニルから直接教わったものだ。うん、秘伝中の秘伝だね。そもそも要石には、洗浄作用のある樹脂から出来たコーティングが施されていて、動物の生き血をかけて結界を解除しても、1、2時間で元通りに戻るのだ。
まずは、動物の生き血が必要だ。それに生き血を入れる革袋も…。
通りに出て、端から端まで歩き、革袋を売っている店舗を探す。革袋は複数の店舗で売られていた。そして、3歳児の手の届く位置に革袋が有る店舗は、目の前の店舗のみだ。店主は老人か…。
限りなく気配を消して、通りに落ちていた小石を拾う。そして、向こう側から歩いてくる幼児へ、指で弾いた小石を当てる。すると、幼児は大声で泣き叫び、店舗の主や通行人達の視線が、一斉に幼児へ向かう。革袋に手の届く位置まで移動していた私は、その瞬間…確実に…革袋を盗み出し…持っている籠に隠した。
そのまま…大通りから裏路地へ入ると、背後から声をかけられた。
「まだガキなのに、中々の手際だ。どうだ? 俺の部下に…」
「しゅうちゅうりょくが…たりましぇんね…」[集中力が…足りませんね…]
早口は苦手だ…。
「何?」
レイナのときといい、この見知らぬおっさんといい、まだ気配を探れる範囲が狭いか…。しかし、私の間合いに入れば…。
後ろを見ずにストーンナイフを投擲する。心音が消えた事を耳で聞き取り、その場を後にした。
「ゴミくじゅが…」[ゴミクズが…]
やはり早口は苦手だ。




