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元陰キャで空気が読めない僕は、今日も高嶺の花の先輩の迷惑を考えずにグイグイ行く ~そしたら何故か先輩の妹が彼女になった件~  作者: 滝藤秀一
閉ざした心の奥は

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頼られた応え

 人気のない公園で2人はベンチに腰かけていた。

 少し冷たい風が頬をかすめる。

 そんな中、杏は悲壮感漂う表情で途切れ途切れに言葉を紡いでいった。

 雄太の方は怒りを押しつぶした顔で、ときどき相槌を打ち、短い言葉で先を促しながら杏の話に静かに耳を傾けている。



 以前、杏が不登校になった原因、そのグループの1人が今朝の登校時に杏を見かけたらしい。

 雄太が感じた視線はそれだったのかもしれない。

 そして放課後、杏をいじめていたその子がメッセージを送ってきたのだそうだ。



 雄太も葵も杏がいじめにあっていたことは以前に聞かされ知っていた。

 だが、結局中学には卒業式を除いて通っていない。

 その卒業式も保健室への登校で、加害者生徒たちに会いはしなかった。


 高校生になり、中学時代とは違い彼女は毎日教室で授業を受けている。

 雄太も最初は心配していたが、クラスでも楽しそうにしている様子を見てどこか安心してしまっていた。


 解決したわけじゃないのに――

 そのことにもう少し気を配るべきだったと自分を大いに攻める。


「ありがとな、話してくれて」

「ごめんね……」

「謝ることなんてないぞ。あとは僕が絶対に何とかするから」


 雄太は少し躊躇したが、杏の頭を優しくなでる。


 それを打ち明けることには勇気がいることを知っていた。

 それを誰かに話すことは雄太には出来なかったが、杏は出来たことを尊敬する。

 それは雄太が葵に告白することよりも、もしかしたら勇気を振り絞ることかもしれない。


 なにより杏の助けてと頼りにされたことが雄太は嬉しかった。

 人に頼られたら、出来ることは何でもしてあげようとするのが雄太の長所でもある。

 だから、何とかしようと力が湧いてくる。


 葵のことよりも少しの間は杏のことを考えないといけない。

 でも優しい彼女は許してくれるだろう。

 むしろお願いされるかもしれない。

 雄太はそんなふうに都合よく考えた。


「雄太君……」

「僕は体験してるから。どうしようもなくつらい気持ちも全部じゃなくてもわかる」

「……」

「杏、胸を張れ。断言してやるよ、お前は何も悪くない」

「……どうして?」

「間近でみてたからな、原因は杏にはない。そしてごめんな。言葉だけでちゃんと解決してあげられなかった」

「そんなふうに言われたら……もっと好きになっちゃうよ」


 杏は打ち明けてよかったと思う。

 そして雄太のことを好きになってよかったとも。



 ☆☆☆



 車内にいる2人は不機嫌な様子でとある高校の校門前にいた。

 日差しがなく雲に覆われた空で、今日は午後から雨の予報。

 時刻は7時を少し過ぎたところで、いつもなら雄太が家を出る時間になっていた。


 雄太も忍も目の前から視線をそらせることなく、ずっと思いを吐き出すようにおしゃべりが止まらない。

 誰かに話すことで、溜まってしまった怒りを放出しているつもりではいたが――


「妬みねえ、ほんと馬鹿じゃない」

「僕もほんとアホだと思います」

「おそらくその推察は当たってる。ひいきするわけじゃないけど、杏はマウント取ったり、自慢することもないしね。君のことに関しては知らないけど」

「……真っ直ぐですよ、杏は」


「どうせあれでしょ、家庭内に問題があってその腹いせにリア充そうに見えた杏を傷つけたとかそんなん」

「他人に怒りをぶつけて、満足するって感じかな」

「ぶつかれよ、勝手に親でも教師でも。関係ないのに巻き込むなっていうのよね。そこは子供だろうと許せる範疇を超えてるね」

「杏に何をしたかは僕がわからせます……」


 雄太1人では感情を抑えられなくなり、大問題を起こしてしまうかもしれないと頭をよぎった。

 だから、杏のことをよく知り相談できる人物でもある貝塚忍に事情を話してストップをかけてくれるように昨夜のうちに頼んでおいたのだ。


 そんな2人は車内で話をしているうちに、妙にヒートアップしてしまっている。

 それだけ杏のことを心配し、大切に思っているという裏返しであり、加害者側があまりにも理不尽でやり切れないというのが強かった。


「早く来ないかしらね?」


 忍は指の関節を鳴らし、敵意をむき出しにする。


「あの、暴力は最後の手段だし、絶対に空振りしてくださいね。なにより行きすぎたら僕を止める役ってことを忘れないで」

「あっー、それ無理。雄君がわたしを止めてね」

「そっちの方が無理ですって! 威圧するだけにしておいてください。たぶん、知らない大人の人が怒ってるパフォーマンスすればビビると思うから」

「どんな感じで?」

「もう二度と杏に近づかないように、心を入れ替えるように、そんな感じです」

「OK。睨んで泣かせばいいのね」

「泣かすくらい大丈夫、かな。とにかく杏が傷ついていることは理解させます。訴えられたら僕が責任を負うんで」

「子供がそんな心配しない。いざとなれば触れられたくないところを暴露して、ぐうの音も出ないくらい論破してやる」

「頼りになりすぎです」

「どっちがよ。誰かの為に一生懸命になれる子はいるけど、ここまでできる子はそうはいないわ」


 忍は口元を緩める。


 徐々に生徒たちは登校し始めてきた。

 雄太は杏が送ってくれた画像と見比べながら、目当ての人物を捜す。


「見つけました」

「じゃ、行くわよ」


 2人は鬼気迫る表情で車を出た。

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