99話 兄妹喧嘩
決闘当日。4月1日。
エイプリールフールの日だが、この決闘は決して嘘にはならないし、冗談で始まったことでもない。
「ここ…だよな、明らかに…」
高宮から指定された地点を、携帯の地図アプリは零の目の前として指し示している。
とは言ってもそこは決闘の地として間違いない。
なぜならそこには大きな高宮家の別荘があったからだ。
中世の様式を取り入れた門をくぐると、十分な広さを持つ庭、菜園や植林場なんかもある。
「これだけ広ければ、あらゆる競技が可能だろう。スポーツ系か、頭を使っていくものなのか、はたまた両方か」
地形を確認しながら、一通り歩き回って頭に入れておく。
ここまで万全を期さないと美月には勝てない、そう思っていたからだ。
時間は正午を1時間過ぎたところ。そろそろ約束された時間のはず。
零は高宮邸の扉を叩いた。
メイドが立ち並んで出迎える、そんな光景を想定していた零だったが、予想は裏切られ中には人気がしない。
いや。
「美月、早いな。まだ20、30分はあるが」
「兄さんこそ、随分とお早いみたいで」
零の存在に気付いて振り返る美月。
その格好はフリフリとしたレースのついたスカートにおおよそフォーマルなカッターシャツ。正装と言って差し支えはない。
「なんだ美月、そんな格好をして。運動するようなお題だったらどうするんだ?」
「まさか、そんなはずはありません。運動能力とは男女の差がどうしても出てしまうもの。高宮さんはそんなものを出題しないと言っていたじゃありませんか。それに」
美月は零の服装をチラッと見てから、言葉を繋ぐ。
「兄さんだって制服で来るなんて、同じことを考えている証拠じゃありませんか?」
「俺は出来るだけいつもと同じ格好にした方がパフォーマンスが上がるからそうしたまでだ」
「ふふっ、じゃあ私もそういうことで」
開戦前から火花を散らす兄妹。お互いに牽制し合っているが、その読みの深さは互角。
「だがわからんぞ、もしやハンデを付けて男女の差を埋めるかもしれん」
「ありえませんね。高宮さんは私についても兄さんについても能力を把握し切れていないはずです。それに、そんな不確定なものを用意しても白黒付けられませんから」
誰もいないロビーにこだまする2つの声は、まるでこれから始まる戦いの壮絶さを知らせるようだった。
「お二人とも、体調は万全のようですね」
兄妹の会話に割って入ってくるように、奥の部屋からやってきたのはこの家の主である高宮。
「私についてきてください。会場に案内いたしますので」
いつもとは違い淡々と済ませる高宮。高宮ももしかしたら緊張しているのかもしれない。
そこから大理石で作られた白く透明度の高い床を歩き続けて、一つの部屋に行き着いた。
「こちらが会場になります」
案内されたのは寮の食堂ほどの大きさがある一室。
部屋のど真ん中に机が2つ置かれていて、奥には既に雨宮や大宮、音宮が座っている。
「これはまた、兄妹喧嘩にはもったいないほど大きいですね」
「世界一激しく濃密な兄妹喧嘩ですからね」
零としては喧嘩だと思っていないのだが、美月にはそうでもないらしい。引き金となったのが零の行為だからある意味喧嘩なのかもしれない。
「それでは席にお座りください」
高宮に言われるがままにして座る。
木造の机の上には何も置かれておらず、手持ち無沙汰となった零は前を見るが、そこにはガチガチに緊張している雨宮の姿が見える。
「おい、何で俺らより緊張してるんだ」
「いえ、ですから、その」
「どっかの惑星を破壊する兄妹でもないんだからそんなに緊張されても困るんだが」
隣で楽しそうに見守っている大宮と音宮を見習って欲しい。
「ふんふふーん♪」
隣を見ると、さっきまでギラギラと闘志を燃やしていた美月が楽しそうに今か今かと待っている。
「久しぶりに兄さんと本気で戦えるのね♪」
「…」
戦闘狂に育て間違えただろうか、と頭を抱えながら、それでも美月と同じように零もはやる気持ちを必死に抑えていた。




