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95話 音宮の晴れ舞台

 3月も中盤にさしかかり、満開の桜もかなり目立つようになってきた頃。


「わあ、広いねここ!」

「こんなに広いのか…」


 零たちは、同じ地区にある1番大きなコンサートホールに来ていた。


 目的は一つ。


「さすが沙彩さんですね」


 高宮の言葉から分かる通り、今日は音宮の演奏会だった。


 といってもワンマンではなくて、オーケストラの中にソロヴァイオリニストとして招かれているらしい。


「さすが沙彩ですね。高校生で指揮者の横に立てるなんて」

「なんか高校生離れした雨宮が言うのも変な感じだな」


 そういう貴方が1番高校生って感じがしないです、と雨宮は言おうとしたが、いたちごっこになると思い、踏みとどまった。


「まあ、まさか沙彩ちゃんが何も言ってくれないとは思わなかったけどねー!」

「沙彩も恥ずかしかったんじゃありませんか? 仲が良い人に見せるのって恥ずかしいですから」

「沙彩さんの場合はただ言うのが面倒だとか忘れていたとか、そういうのだと思いますけどね」


 大宮、雨宮、高宮が楽しく談笑している。


 彼女たちからしても、やはり中学からずっと学校生活を共にしてきた友人が活躍していることは嬉しいようだった。


「おい、そろそろ始まるみたいだぞ」


 零がそう言ったと思うと、照明がステージ上のものを残して他は全て消えた。


 その内、舞台の下手に司会が現れて今日の演奏会の進行を説明していく。


 司会の合図によって舞台の幕が開き、楽団が露わになる。どうやらオーケストラのようで弦楽器を持った人間がほとんどである。


「続いて、本日のメイン。高校生にしてその名を世界に轟かせている天才少女、音宮沙彩さんの登場です!」


 司会の言葉がさらに快活になったかと思うと、下手から音宮が登場した。


 青色のドレスに、いつもは適当にしている髪の毛も丁寧にセットされ肩から流れている。生気のないいつもの姿ではなく、背筋を伸ばして優雅に歩いている。


「わぁ…沙彩ちゃん、すごくかわいい…」

「ほんとですね…沙彩さんなのに、まるで別人みたいに綺麗です」

「沙彩…」


 三者三様、それぞれ感嘆しているが、会場全体もその例に漏れることなく息を漏らしている。


 そして、零もその音宮の変貌っぷりに驚いていた。


「まさかあの怠け音宮がちゃんと着飾ることができたとは…」

「なんで沙彩をそんな低レベルな次元で褒めるんですか…」


 そんな話をしている間に指揮者も舞台袖から現れて、役者が揃った。


「それでは、演奏会をどうぞ楽しんでいってください!」


 そうして演奏会が始まり、音宮の独壇場が始まった。



 ヴィヴァルディの四季の春、チャルダッシュにツィゴイネルワイゼンなど、これでもかとヴァイオリンのソロを引き立たせるような曲選考に、音宮は一層輝きを増していった。


 高校生とは思えないほど舞台慣れしており、音宮がオーケストラを物理的にも精神的にも引っ張っている、という印象を受けた。


 また音宮の演奏自体がとても素晴らしく、難易度の高い曲をダイナミックにかつ繊細に弾く姿は、見る者と聴く者をどちらでも魅了した。


 終わってみれば圧巻の一言に尽き、涙を見せる者もいた。


 …雨宮のように。


「ぐす…ぐす…っ…。さあやっ…すご、すごかったです…」

「やめてよ京ちゃん。泣きすぎだよ」


 演奏会が終わって着替えも済ませた音宮が、雨宮を苦笑交じりに宥めている。


「まあ、泣くほどすごかったってことだよー! 私もうるっときたよ!」

「それでも京華さんは泣きすぎですけどね。演奏始まってすぐに泣いてましたし」


 高宮は多少呆れているようだが、それでも演奏に感銘を打たれたようで演奏中は聴き入っていた。


「それにしても音宮があそこまで凄いとはなあ。話には聞いていたがあれほどとは」

「れいっち、もう少し素直に褒めてくれた方が嬉しいよ?」

「率直な気持ちを言ったけどな」


 音宮は演奏会終わりで気分が良いようで、零の言葉にも満足していた。


「とにかく早く帰るぞ。もう春だとは言えまだ寒い」

「はいは~い」


 上機嫌な音宮を半ば強引に連れ帰った零だった。



 帰りの電車で、疲れていたのか零に寄りかかって寝ている音宮を見て、音宮以外の4人はみんな苦笑いしてその日は音宮を労ったらしい。

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