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92話 大宮、小説を買う

 2月ももう終わろうとする頃。


 零は大宮から相談を受けた。


「零くん、わたし…」


 不安そうに話し始める大宮に、零はどきりとした。


 零がSクラスに上がってすぐに大宮に起きたトラブルを思い出したからだ。


 零も緊張からあふれる汗をなんとか抑えて、大宮の話を聞いた。


「零くん、わたし…………ライトノベルが読んでみたいの…」


 その瞬間、零は自分の耳を疑った。



「大宮が…ラノベを…?」

「うん」


 おかしい。大宮は零がラノベを読んでいるのを見るたびに没収しようとしていた。


『わたしたちといる時くらい本じゃなくて話そー!』


 いつもそういって残酷にも零の手からラノベを回収していた。


 あの大宮が。


「どういう心境の変化だ…?」


 何か変なものを食べたのではないかと、おそるおそる聞く零に大宮は少し恥ずかしそうに答えた。


「実はあんまり国語の成績がよくなくて…普通の小説とか評論とかは読むんだけど、それだけじゃダメかなって…」


 深刻そうに答える大宮。


 ――だが嘘である。


 この女、別に国語の成績が悪くなっているということは一切ない。ちゃんと満点近い点数を出している。成績はむしろ零に教えられてから順調に伸びている。


 では、なぜライトノベルを読もうとするのか。


 単純である。


 零と話す話題を増やしたいからだ。


 そう思ったきっかけは少し前にさかのぼる。




 バレンタインデーの騒動が終わった後のいつもの勉強会。


 だが。


「零さん♪ ここはどうやって解けばいいんですか♪」

「なぜ文末がクエスチョンマークではなくて音符マークなんだ。お前それくらいわかるだろ。あとくっつきすぎだ」

「はーい♪」


 ちゃっかりこたつで零の横に位置している高宮が、勉強中の零にちょっかいをかける。


 零は勉強の邪魔をされて怒っているわけではないが、鬱陶しそうに高宮を剥がしている。


 だが。


 その力は零の本来あるべきものからほど遠い。


 相手が女子だから気を使っているのかもしれないが、高宮のように非力な女性相手なら丁寧に引き剥がすことも可能なはずだ。


 それをしていない、それが示すことは。


「零くんも満更じゃないんでしょ!」


 これである。


「さっきからくっついちゃって、何してるんだー!」


 次いで言いたかったのはこれ。


 最後に。


「京華ちゃんもどさくさに紛れて零くんとの距離を縮めてるんじゃないよー!」

「えっ⁉」


 横でもそもそと前進していた雨宮の動きが止まる。


「べ、別に私はそんなつもりは…」

「じゃあ無意識ってことなんだー! そうなんだー!」


 むきーっと怒る大宮。


「あらあら、飛鳥さんらしくありませんね。それだけおモテになる人が男性関係で嫉妬とは」

「べ、別に違うもん! そんなんじゃないし!」


 口ではそう言っている大宮だが、内心では焦りを隠せないでいた。


(玲奈ちゃんはどんどん零くんはとの距離を縮めるし、京華ちゃんだって…うう、どうしよう…)


 零を最初に好きになったのは自分、だから負けるはずもないし負けられない。そんな思いを大宮は強く感じた。


(このままじゃダメだ…何とかしないと…)



 そのあとあれこれ画策した末に思いついたのが、零と共通の話題を増やすこと。つまりラノベを読むこと。


 そうすればたくさん話せるだけでなく、雨宮や高宮とは差別化できる。


 それに物語を読むのは苦手じゃない。むしろ好きでたくさん読んでいたくらいだ。


 だから、この作戦で行くことにした。



「というわけで、零くん! おすすめのラノベを教えてくださいっ!」


 その言葉を聞いて、零は返事も言わずに自分の部屋の本棚を物色して、あれでもないこれでもないと呟いている。


 やがて、何かを諦めたのか大宮のところに戻ってくると、無邪気な子供のように言った。


「よし、買いに行くぞ!」

「…えっ?」


 零は寝間着から一瞬で着替えると大宮を引っ張っていった。



「こ、こうなるとは…」


 まさかラノベの話をしたいという思いだけで、零とのデートがセッティングされるとは。


「そういえば、大宮はどんなジャンルが好きなんだ?」

「う、うーん、あんまり読んだことないからわかんないけど、人が死んじゃうやつとかは好きじゃない」


 ラノベという領域を開拓したことがない大宮は、ぼんやりと希望を伝える。


「じゃあ青春ものとかスポ根とかはどうだ? ラブコメとか」

「あーそういうの好きそう!」

「よーしわかった」

「頼りになります教官!」

「うむ」


 大宮がびしっと敬礼をすると、零もテンションが上がっているのか同じ調子で返す。



 零にラノベのおすすめを教えてもらう。一緒に本を選ぶためにデートをする。


 そこまでは良かった。


 問題はそこから。


「零くん…もう大丈夫だよ…」

「何を言ってる。最初は適当に選んではダメだ。今日は俺が払うから安心しろ」

「は、はぁ…」


 本屋にいることはや3時間。


 ああでもない、こうでもないと零が頭を悩ませている。というか、むしろ人にラノベを薦めるという初めての体験を心の底から楽しんでいるように見える。


 零の楽しんでいる姿を見るのはいい…だが、さすがに長い。


「零くん、そろそろ休憩しない?」

「待て、買ってから休憩にしよう」


 そのあと30分くらい悩んでから、零はラブコメが間違っている本と、剣道で頂を目指す本をそれぞれ買った。

新しく短編もののラブコメを書きました。

先輩が偶然だと言って近づいてくる物語です。

可愛い先輩と、主人公の健気な感じを見に来てください!


「先輩と『偶然』よく会う話」

https://ncode.syosetu.com/n1066fx/

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