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9話 Sクラス一日目

 騒ぎが収まり一段落すると、担任の先生と思われる小さい女の人が入ってきた。


「おはよー!それじゃあ零ちゃんが新しく入ったことだし、改めて自己紹介しますか~。私はSクラス担任の三日月紅葉みかづきもみじです。紅葉ちゃんって呼んでくださいね!」


 初対面で零ちゃん呼ばわりとは。なんなんだこの先生、なんか調子崩される。


 零はこの時少し驚いていた。Sクラスの担任というともっと厳格な人だと思っていたからだ。実際このSクラスとは放任主義のようだ。まあ、あの四宮をまとめるのは難しいだろうからな。それくらいがちょうどいいのかもしれない。


 ちなみに四宮とは、雨宮、大宮、高宮、音宮の4人である。誰がつけたのかわからないが、実際に学校で呼ぶ人はいない。その呼び方に対して四人が怪訝そうな態度をとるからな。


「じゃあ()()()よろしく~」


 そう言って三日月先生は教室を出ていく。零はあれが一年間担任かと思うとともに、三日月先生が見かけによらず優秀な教師であることも理解した。


 そして授業が始まった。


 Sクラスと言いながら授業内容はいたってシンプルで内容自体はあまり変わったことをしていない。もちろん先生の質はいいが、明らかに違うほどではない。


 ――零は授業中に4人の方を見てみる。


 雨宮と大宮は真面目に授業を聞いてノートを真剣にとっている。彼女らの頭なら正直自習だけで済みそうなものだが。2人はとても謙虚なようだ。


 それに対して、高宮は上品に笑いながらこちらを見ている。まるで品定めをしているかのように。


 そして音宮は…寝ている。気持ちよさそうに。朝も遅くまで寝ていたようなのに、まだ寝るのか。


 …これはたしかに先生もまとめるのは大変そうだな。


 チャイムが鳴って4限の終了を告げると、高宮が俺たち4人の方に声をかけてきた。


「せっかくですので今日は5人でお昼ご飯を食べましょう。食堂の一部分を確保いたしましたので」

「うんいーよーれいにゃん!」

「だから飛鳥さん、れいにゃんはやめてください」

「はーい」


 決まりごとのようにお互い慣れた対応をしている。


「あたしもいいよれーちゃん」

「私もいいですよ」


 音宮と雨宮も返事をする。断ろうとしていた俺も、こうなると断りづらくなってくる。


「じゃあ俺もいいぞ」


 高宮が笑みを浮かべる。予定通りといった顔だ。


「それではいきましょうか」




 廊下を歩いているとやはりとてつもない量の視線を引き付けている。四宮+零で歩いているだけで、他の生徒たちは次々に人を呼んでこちらを見てくる。


 理由は簡単で、四宮が学校でそろって歩いていることがめったにないからだ。


「Sクラスの4人が並んで歩いてるぞー!」

「おお…まじか!すげえ!初めて見た!」

「素敵だよね…あの4人…」

「俺も隣並んでみてー!」

「あんたなんか場違いよ」


 あちらこちらで生徒が騒いでいる。それに対して4人の反応はまるで違う。

 雨宮は気にしないといった感じで堂々と歩いている。大宮は明るくやっほーと言いながら進む。高宮はにこやかな顔をしていて、音宮は眠たそうにしている。

 そして俺は…感知されてないらしい。


 人混みの中に自然とできる道を歩いていくと食堂の真ん中のテーブルだけ誰も座っていない。どうやらここで食べるようだ。


「では座りましょうか」と高宮が言うと、4人が四角形の形に座る。俺は雨宮の隣に座る。するとようやく俺の存在に他の生徒も気が付いたようだ。


「おい、あいつだれだよ」

「あれが最近Sクラスになった入江っていうやつだよ」

「あのカンニングの?」

「なぜだかわからないけど、それは朝高宮さんが否定していたわ」

「え、高宮さんがあいつを擁護したっていうのかよ」


 相変わらずひどい言われようだな、と少し傷つきつつ、すぐ気を取り直して4人の顔を見た。改めて見ると美少女ばっかりで絶景だな、と思う。


「では食べる前に自己紹介をしましょう。私は高宮玲奈です。あと2年間よろしくお願いします、入江さん」

「私は雨宮京華です」

「あたしは大宮飛鳥ねー!」

「あー私は音宮沙彩です~」

「俺は入江零だ。よろしく」


 そうして、一通り自己紹介を終えた俺たちは、食べ物に手を付けた。


「ねーねー入江くんは部活やってるの?」

「俺か?俺は残念、無職だ」

「じゃあ陸上部に入る?」

「ありがたい勧誘だけど、俺は運動ができるわけじゃないから遠慮しとくよ」

「またまた~」と冗談を笑うように大宮はそう言った。


「入りたくなったらいつでも言ってね!」


 残念だが今のところ陸上部に入る目的は大宮の好感度を上げる以外に思い浮かばない。それに部活に入ったら、雨宮との勉強ができず、彼女の好感度を落としてしまう。大宮にはありがとうとだけ言っておく。


 ――それにしても、4人はとても仲が良さそうだ。多分、今まで彼女たちの能力があまりにも普通の人たちと離れすぎていて、気持ちが共有できる相手が彼女たちくらいしかいなかったのだろう。天才であるがための悩みか。まあ、俺もこれから仲良くしていけばいいか。そう思っていると


「そーいえば、入江くんは好きな人とかいるんですか?」


 急に音宮が爆弾を投下してくる。いるわけねーだろ、俺はオタクだぞ、と言おうとすると


「いないってのは、なしだから~」と音宮がニヤニヤしながら言う。


 意味が分からん。いないかどうか聞いてるのにいないって言ってはいけないって意味不明だろ。答えに悩んで4人の様子をうかがう。音宮と大宮は興味津々。高宮は、ふふふ、と楽しそうに見ている。雨宮はちらちら見てくる。


 しょうがない、適当に言う。


「恵ちゃんかな」


 もちろん俺の言う恵ちゃんなんていうのは実在しない。好きなラノベのヒロインだ。


「…嘘ですね。そんな人実在しないのでは?」


 あ、そんな一瞬でバレちゃうものなのか。。


「簡単にばれたのは面白くないな」

「私の前で嘘をついても意味ないですよ」

「はいはい」


 大宮と音宮はなんだつまらなーいと言いながら食事に戻った。高宮は相変わらず笑っている。雨宮は...下を向いている。


 この4人といるとなんだか疲れるなと、零はため息をついた。


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