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89話 5人の勉強会

 朝の話を踏まえたうえで始まった勉強会は、それはそれはもう零にとって悲劇にしかならなかった。


 まずは、人数が増えるから零からもらえる指導時間が少なくなると抗議した雨宮に対する対案は、勉強会の時間そのものを増やすというもので。


 今まで午後の8時からの一時間だった勉強会は、午後の5時から始まり夕食の休憩を挟んで午後の9時まで続くというもので。


 零は帰ってからの自由時間を事実上奪われた。


 一応、その案に対して部屋の主である零と勉強をしたくない音宮は反対をしたが、雨宮、大宮、高宮の賛成により多数決のもとに可決された。


 そうなると零に残っている自由時間は、お風呂やその他もろもろを済ませた夜の10時以降になるから、零は睡眠時間を削るしかなく。


 しかし、それもどのように知ったか分からないが雨宮にバレて(十中八九、高宮の仕業だが)、次に睡眠時間を削るようなことをすればただじゃすまないと脅された。


 というわけで何が起こっているのかと言うと、現在進行形で零が超健全な高校生になっているということである。


 いや、美少女4人に囲まれて何も起きていない所は健全の対極と言ってもいいのだが、生活水準はかなり高い。


 ちなみにこの勉強会によって零以外の成績が軒並み成長を遂げ、1月に行われたセンター試験の問題を2年生ながら解いた5人だが、全員が満点近くをとっていた。


 さすがにこの成績には零たちの担任でもある三日月先生もドン引きしており、「来年の1年間は何をすればいいんでしょうか…」と頭を抱えていた。


 今回は、そんな零にとって苦痛で他の4人にとってはかなりの優良イベントである勉強会を見ていこう。




「零くん、ここの問題なんですが…」


 現在勉強会に参加しているのは零に雨宮、それに音宮である。


 大宮は部活の関係でもう少し後になり、高宮は少しやらなければならないことがあると言って少し前に顔を出しただけだ。


「うーん、その記述の仕方だと少し減点されるな。ここは、こうやって書いた方が…」


 そして今は零が雨宮の質問に丁寧に答えているところだ。


 いくら零とは言え、雨宮が質問してくる内容は高度なものが多いため零も慎重に答えを吟味して教えている。


「ああ、なるほど! 本当に零くんがいると助かります…」

「いやいや、これくらいは別に誰でも。というか答えはほぼ合ってるじゃないか」

「最近は調子がよくて…。これも零くんのおかげです!」

「いやいや、ちゃんと努力してる自分を褒めてあげろって」


 まるで彼氏彼女の会話のような、そんな何者をも近づけない会話をじーっと睨んでいるものがここに一人。


「…なんですか沙彩」

「べっつに~?」


 何か思わせぶりな態度をしておきながら、何も言わずに勉強に戻る音宮。


「てかさぁ~! この5人の勉強会を提案したあすっちとれーちゃんがいないのはなんでなの~? わたしいらないじゃんか~」

「はいはい、沙彩。そんなこと言ってないで勉強しますよ」

「うう~、理不尽だ~」


 めそめそ、とウソ泣きする音宮をさすがに不憫に感じた零が、少し休憩しようと提案する。


「音宮。俺だって辛い思いをしてるんだ。一体俺が何本のアニメをため込んでいると思っている…」

「ふ~ん、リア充の言うことなんて聞く耳持たないから~」

「何かお前は大事なことを勘違いしているな?」


 俺はまったくリア充ではなく陰の者だぞ、と音宮に言ってもたしかに聞く耳を持たない。


「だって、どう考えても京ちゃんとれいっち付き合ってるでしょ~!」

「な…っ! つ、付き合ってる⁉ わ、私と零くんが…?」


 そうやってひどく動揺して顔を赤らめるからあらぬ誤解を受けるんだぞ、と零は口に出そうとしたが喉のあたりで押しとどめた。


「音宮、お前の辛さは俺がよく分かってる。分かってるから八つ当たりをしないでくれ。俺の彼女はいじられると弱いんだ」

「か、彼女っ⁉」


 代わりにいじりをぶっこむと、雨宮はりんごのように顔を赤くしてこたつの中に潜ってしまった。


「な、音宮。どう見ても俺たち付き合ってないだろ?」

「そ、それはわかったから、絶対にあすっちやれーちゃんの前でそのボケやらないでね~? どんなことになるか想像もできないから…」


 もし本人たちの前で零がその発言をしたらどうなるかを想像して、音宮はがくがくと震えている。本当にやめた方がいいやつだろう。


「ま、なんかコーヒーでもいれるわ」

「砂糖とミルク多めで」



 やがてキッチンから戻ってくると、高宮がいつの間にかこたつに入っていた。


「ん? 高宮来てたのか。言ってくれたらお前の分のコーヒーもいれたのに」

「いえ、零さんにそんなお手間を取らせるわけにはいきませんから」


 コートを脱いで自分の部屋のようにハンガーにかけている。


「一度自分の部屋に戻ればいいじゃないか」

「いえいえ。帰った後『コート忘れちゃった』って戻ってきてそのまま零さんと一夜を共にする予定なので」

「帰るときに声かけるからな。それともし忘れたなら次の日に返すから絶対に夜這いとかするな」


 真面目な顔でとてつもなく変態じみたことを言う高宮にはもはや恐怖を抱くが、一応自分で勉強会を提案したというのもあって勉強自体は真面目にやっている。



「遅れてごめーん!」


 数十分後、大宮も零の部屋に入ってきて4人で勉強会がスタートした。

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