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88話 3学期開幕

 冬休みはその後、特に何もなかった。


 零が寒い空の下、大宮に連れまわされたり、高宮がモーニングコールがてら零のベッドに入ってきたり、音宮が最終日に課題に追われて雨宮が鬼教官になったりしたが。


 零の部屋のセキュリティが強化されたくらいで、特筆すべきことは何もない。


 そんなこんなで冬休みは明け、3学期が始まった。


「3学期って、ほんとに何もないよねー」


 3学期初日に言うようなことでもないことを大宮が諦めたように言う。


「ほら、大宮さん。やる気出してください。先生的には3学期ってとっても忙しいんですよ?」


 三日月先生が、それこそ憂鬱そうに大宮に指摘する。


 どうやら先生の職務というのは、受験や3年に向けて引き継ぎなどもあるため3学期はとても忙しいそうだ。


「飛鳥、3学期にはちゃんと行事がありますよ」

「え、なに⁉」

「学年末テストです。2年生の集大成ですし、とても大きな行事だと思います」

「……京華ちゃんだねぇ…」


 なぜ期待してしまったのか、と大宮は頭を抱えて落胆している。


「まあ、ウチの場合は来年も同じクラスだしねえ〜、『後悔なく過ごそう!』ともならないよねえ〜」

「沙彩さんがちゃんとテストを乗り切れば、ですけどね」

「耳に痛い諫言をありがとう〜…」


 音宮は2月末にある定期テストに対して既に憂鬱なようだ。だらーっと机を物干し竿みたいにして体を脱力させている。


「まあこれだけ何もなければ、大人しくしてるのが無難だろう」

「零くんはそう言って、ずっと家に引きこもって好き放題に自分の趣味に時間を費やす気ですよね」

「なぜ分かった」


 こたつでぬくぬくと温まりながらゆっくりアニメを消化しようとしていたが、そんな零の魂胆はすぐに雨宮に見抜かれた。


「勉強会は3学期も変わらずやりますからね」

「い、いつまで続くんだ…」


 午後の8時から1時間、毎日行われている勉強会はどうやら続くらしい。


 と、そこで大宮と高宮が食いついた。


「それ、それだよ、京華ちゃん」

「そのことについて話がしたいんですけど」

「な、なんですか…⁉」


 大宮と高宮の目つきがさっきの穏やかなものから急に鋭くなったことに、雨宮は思わず狼狽える。


「なんか最近京華ちゃん、その『勉強会』ってのを隠れ蓑にして零くんとイチャついてない?」

「京華さん、夜に1時間も零さんの部屋にいるのって良くないのではありませんか? 何のために『勉強会』なるものをしているのですか?」


 矢継ぎ早に言葉を繰り出す2人を、零は感心して見ていた。


(お、とうとう俺を勉強会から解放しようと動いてくれたのか…。やっぱ毎日1時間も取られてたら趣味の時間がなくなってダメだよな)


 対して雨宮は、あらぬ誤解をかけられたことに顔を赤くしながら反論していた。


「ちゃ、ちゃんと勉強しています! あまり会話もしていませんし! 話したとしても勉強のことだけですっ!」

「ふーん」「そうですか」


 雨宮はその張りのある胸をさらに張って主張するが、2人が納得した様子はない。


「そういえば最近はだいぶ冷えてきましたが、お二人はどのように勉強をしているので?」

「え、えっと…こ、こたつの中で…」

「京華ちゃんだけ?」

「い、いえ…! れ、零くんも一緒で…す…」

「はいはい、イチャイチャ」


 どうやら一緒にこたつで勉強しているのが、大宮と高宮には好ましくないらしい。


 それに雨宮も少し零との距離が近かったのを自覚して、弱腰になってしまったこともありすかさず2人は責め立てる。


「2人っきりで同じ部屋にいるのも看過できないんだけどねー?」

「それがこたつの中でってなると、もう同衾と言っても過言ではありませんね」

「ど、同衾っ⁉ そ、それは言い過ぎです! たまに足が当たっちゃうくらいですっ!」


 弁解するように言った雨宮の最後のセリフだが、ここまで来れば火に油。


「どうせそうやって何回も足が当たって照れくさそうに目を合わせてイチャイチャしてるんでしょっ⁉」

「いや、もう足をわざと当てているかもしれません。というか、もはや足以外の部分も当てているかもしれませんっ!」

「そ、そんなことないんだけど…!」

「「だまらっしゃい!」」


 燃え盛る二柱の火炎は止まるところを知らず。


 ついに譲歩したのは雨宮の方。


「では、一体どうすればいいんですか…?」


 恐る恐る聞く雨宮に対して、大宮と高宮は即答した。


「「私たちも勉強会に参加します‼」」


「ーーへっ?」


 思わぬ方向に終着した議論に零は素っ頓狂な声を出すしかなかった。


 続けて大宮が言う。


「私たちも参加すれば問題ないっ! 前にも5人で勉強会をやったことあったんだから、大丈夫!」

「ーー5人?」


 何故か参加することになっていた音宮が反論混じりに尋ねるが、1番成績の悪い彼女は強く反対することもできなくて。


「では明日から5人でやりましょう。いえ、今日から5人です」

「なんかすごい超展開で決まっていくんだが⁉」


 家主、というか部屋主である零の意見も無視され。


 5人で勉強会をすることに決まったのだった。



「あのー、熱くなってるところ悪いんだけど、そろそろ授業、始めるよー?」


 すっかり除け者になっていた三日月先生が困惑するのも無理はなかった。

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