84話 美月との年末
「新年あけましておめでとう、美月」
「はい、兄さん。こちらこそ、明けましておめでとうございます」
俺は、この年明けを美月のいるマンションの一室で迎えていた。
「いつも思うけど、身内に改まるのってなんか恥ずかしいよなー」
「まあそうですね。私と兄さんはもう切っても切り離せない関係にありますから…♪」
「それって血縁関係ってだけだよな!? 言い方に他意があるのは気のせいだよな!?」
「私は事実を言っただけですよ」
新年早々この調子じゃあ、今年も大変な1年になりそうだな。
でもやはり美月といると落ち着く。美月はあいつらほど騒がしくもなく、変なキャラになることがたまにあるけど普段はとても落ち着いていて十分な距離感がある。
さすがは我が妹。とても可愛い。あ、でもこれは別にシスコンとかじゃないからな。
「兄さん、朝はお雑煮を作りましたので、リビングの方まで来てください」
それでも、このエプロン姿は萌えるな…って別に妹のことを変な目で見てるわけじゃないからな。家庭的でかわいいってだけだ。
リビングに着くと、すでに湯気がもわもわと出ており、食欲をそそるようなにおいが充満していた。
「どうぞ兄さん。熱いですから、ゆっくりと召し上がってください」
「ああ。いただきます」
雑煮はシンプルなタイプのやつで、かつおぶしで取った出汁におもちや人参、ほうれん草が入っている。
おもちを一齧りすると、汁がしみ込んでいて体に染みわたっていくような温かさがあった。
「うん、やっぱ美月の料理は美味いな」
「お口に合ったようなら良かったです」
今までに美月の料理で美味しくなかったものなどなかったが、いつも美月はこうやって謙遜をしてくる。本当にいい子だ。嬉しそうにしてるのも本当に可愛いな。
「今年は年賀状を書くのですか?」
雑煮を入れていたお椀を片付けて代わりに温かい緑茶を持ってきて、椅子に座って落ち着いた美月が唐突に聞いてきた。
「年賀状か? 書く予定はないな」
「いや、一応聞いてみただけですけど。ほら、叔母様とか」
「意地でも送らん」
「ですよね」
美月はふふっと手で口許を隠して笑った。
叔母に対して家にも帰らず年賀状も書かないという出来損ないの甥だなと、つい自分でも笑ってしまう。
「それなら、あのひとたちは? 前にうちに来た4人の女のひととは親しくなされていたようですけど?」
あれ、おかしい。どこで地雷を踏んだ? なんで美月の顔が少し怒ってるんだ?
「いや、別にすぐ会うんだから送らないけど」
「そうですか…ふんっ」
そっぽを向かれてしまった。
ーーと思ったら、急にゴキブリのようにすりすりと高速で近寄ってきて目を輝かせて提案をしてきた。
「いっそのこと長めに冬休みをとってこちらでゆっくりしていかれたらどうですか!?」
「い、いやさすがにお前にずっと迷惑かけるのはまずいだろ」
急に近づいてきた妹に驚いてしまい、返事がたどたどしくなってしまった。
さすがにずっといるのは迷惑になると思って断ったのだが。
「いえいえっ! 兄さんでしたら半年だろうと1年だろうと一生だろうと大丈夫です!」
「全く大丈夫じゃねえよ。特に最後の。なんだよ一生妹に世話される兄貴って」
「兄さんは特別なので許されるのです!」
「許されんわ」
急に、「これから妹にお世話になることにしました」なんて、例えばあの真面目な雨宮なんかに言ったら縁を切られること間違いない。
「まあそうだな。お前が嫌じゃないなら三が日くらいは居させてもらうかな」
「むー、3日じゃ短いんですが…。まあいいです♪」
なんか、気が付かないうちに当初より滞在の予定を延ばしてしまったが、まあいいか。
雨宮たちにはまた思い出したら連絡入れておくとするか、と思って後回しにして美月との時間を楽しむことにした。
もう美月がヒロインでもいいんじゃないかっていう気がしてきました。
大丈夫です。美月はちゃんと妹です。




