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83話 大晦日の雨宮たち

「じゃあまた年が明けたら」


 そう言って零くんは私たちが住んでいる寮を後にした。


「いってらっしゃーい」


 飛鳥が元気よく手を振るけど、零くんはそのまま振り返らずに門の先へと消えて行ってしまった。


「じゃあ私たちも部屋に戻りましょうか」


 今日は大晦日。もう昼だというのにかなり冷えていて、庭のあちらこちらに朝降った雪がちらほらと残っている。


 私たち4人で戻って来た先は私の部屋だ。


「いやー、京華ちゃんの部屋にこたつがあって良かったよー」

「私の部屋は溜まり場じゃないんですけど」


 と言いつつも、いつもこの4人で集まるときは決まって私の部屋だ。中学の時でさえ私の家に来て集まっていた。


「まあ、私の部屋は色々と機材があって居づらいですし、飛鳥さんは散らかってますし、沙彩さんは楽器がたくさんあって迂闊に動けませんからね」

「うう…」「はい…」


 玲奈さんが皮肉を込めて事実を言うと、飛鳥と沙彩は強く返せないようで下を向いていた。


「それにしても、零くんがいなくなるだけでかなり寂しくなるよねー」

「分かります。今まではこの4人でいることが当たり前だったんですけどね」


 中学の時なんかはこの4人でいることがほとんどだったため、違和感を感じるどころかむしろぴったりハマった感じというか、この4人じゃないとしっくりこない感じさえしたのに。


 零くんが来て半年以上たって、かなり彼とも打ち解けられたと思う。いないと寂しいと思うほどには。


 ――って別に寂しくはないですよ!? ただいつも一緒にいたから足りないような気がするだけで!


 って誰に言い訳してるんだろう…。


「ま~、零っちもさすがに年末年始は妹ちゃんと過ごすって言うんだから仕方ないよね~。一人で暮らしてる妹ちゃんのこと、心配だろうし~」

「零さんは妹さんのことをかなりかわいがっているようにも見えましたけどね」


 おお、玲奈ちゃん落ち着けー。その切って張ったような笑顔のあちこちからドス黒いオーラが漏れてるから。


「れいにゃん、なんで妹にまで嫉妬してるのさー」

「別に嫉妬なんかしてませんよ? あとれいにゃんって呼ばないでください」


 …あれで隠せてるつもりなのか玲奈さん。


 真っ黒な殺意とも呼べる雰囲気が自分に向けられたのを感じた飛鳥が、慌てて話を変える。


「で、でも、元日の夜には帰ってくるらしいし! そこで新年の挨拶とかすればいいじゃん!」


 零くんの妹の話から遠ざかって玲奈さんも落ち着いたみたいで、いつもの顔に戻る。


「そうですね。みんなでおせちでも作ってお祝いしましょうか」

「いいね~おせち」

「沙彩も手伝うんですよ」

「え~」


 そういえば前に4人で料理を作ろうとしたときも沙彩は全く働かなかったな。もしやるなら、今回はちゃんと頑張ってもらわないと。


「2日はさー、みんなでお参りに行こうよ!」

「え、でも飛鳥。元旦も行くのでしょう?」

「まーそうだけどさー。ほら、振袖すがたとか見せて零くんのハートを討ちぬこう、みたいな?」


 振袖をきる私。それにいつもの冷静さを欠いて恥ずかしがりながら褒める零くん。


「うふ、うふふふふ」

「ちょっと京華ちゃん!? 何か変な笑いがこぼれてるけど、何を想像してるの!?」

「い、いけない。べ、別に何も考えてなんかいませんよっ?」


 いけないいけない、なにか変なことを妄想していた気がするがきっと気のせいだ。


「ま~零くんには振袖とかよりも水着とかの方が効果ありそうだけどな~」


 み、水着!?


 太陽がじりじりと照りつける浜辺で、白色の水着を着た私をじろじろと見たと思ったら赤面して顔を逸らす零くん…。


「――さすがにそれはむりぃーっ!!」

「な、なんか京華ちゃん、絶好調だね…?」


 あ、また何か夢を見ていたような…というか飛鳥が全力で引いてる…。


「こ、今年はやめときましょうか…。普通に新年をお祝いするだけにしましょう」

「う、うん…」


 一歩引いたところで、「ふふ、水着もいいですね…」と企み顔をしている玲奈さんを心配しつつ、大晦日をまったりと過ごしていった。

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