81話 誕生日会 前編
「これはまた豪華な…」
零が夜の8時すこし前くらいに食堂に降りてくると、そこには圧倒されるほどの料理ができていた。
チキンの丸焼きや煌びやかに彩られたサラダ、ポテトの山盛りなど豪勢な料理ばかり置いてある。
食堂の隅にはクリスマスツリーが置かれており、イルミネーションで飾り付けられている。
雨宮に、夜ご飯はいつもより遅い8時にみんなで食べましょうと言われ我慢していたがこんなフルコースだとは思わなかった。
「メリークリスマース!!」
雨宮たちの4人は準備をしてくれていたらしく、先に集まっていた。たった今、歓迎の挨拶をしてくれたのは大宮だ。
「メリークリスマス。と言っても、俺ってあんまりこういう行事得意じゃないんだけど」
「まあそんなこと言わずに! 早く早く」
大宮に促されたのは、長方形の机の短辺に置いてある席。ほかの4人は長辺に向かいあって2人ずつ座っている。
「なんか俺が取り仕切るような位置に着いちゃってるけどいいのか?」
「もちろん!」
大宮が、さもそこに零が座るのが当たり前のような言い方をするので、零もそこに座った。
「ていうか、凄い料理だな。これは食堂の人が作ってくれたのか?」
「しっ。零くん、まだ始まってないので静かにしててください」
「? ああ…」
何が始まっていないのか、始まったら喋っていいのか、というか雨宮が何やら緊張した顔なのは何故か、色々な疑問が浮かんできたがとりあえず零は棚に上げた。
「じゃあいいですか、零さん」
「何がいいかも分からんが、とりあえず問題ない」
「では始めましょう」
高宮が零に尋ねたのち合図を出すと、部屋が真っ暗になった。
思わず驚く零に、さらにサプライズが押し寄せる。
「どうぞ入ってきてください」
高宮がそう言ったと思うと、入り口側から、光るものが出てきた。
暗闇に浮かぶ赤橙色の光の数々。ゆらゆらと揺らいで近づいてくる。
それが蝋燭の光だということは、零にもすぐ分かった。
だが、クリスマスの演出だと思っていたため、凝ってるなぁという印象しか覚えなかった。
だから、蛍光灯の光が戻ったあと零はさらに驚かされた。
「零くん」「零くん!」「零さん」「零っち〜」
「誕生日おめでとう!!」
そういって4つのクラッカーが零の少し上に向けて放たれる。
「? !?」
珍しく、いや初めてかもしれない、零が本気で困惑している姿に、雨宮は安堵し他の3人は喜んでいる。
「サプライズせいこう〜」
音宮が零の顔を確認して喜ぶが、零は未だにピンときていないようで自分の手の上に乗ったクラッカーのビニールテープを見ている。
「零くん」
雨宮の呼び掛けた声に反応すると、雨宮はケーキのほうに視線を誘導したのでそちらを見てみる。
そのケーキにはホワイトチョコで作られたプレートにこんなことが書いてあった。
『零くん17歳の誕生日おめでとう!』
その文言を繰り返し見てようやく状況が理解でき始めたのか、「えっ、あっ」と喋り出す。
その姿を見て雨宮たち4人は、とうとう堪えきれなくなったのか爆笑する。
「あはははは!」
中でも1番声を上げて笑っているのは音宮だ。
「なんだよ、そんなに笑うことかよ」
「だって、あの零っちが! ぽかーんとしてるんだもん!」
「うるさい」
音宮に笑われたのがよほど恥ずかしかったのか、零の口調がいつもより激しくなる。
「いや、零さん。サプライズ成功したとはいえ、ここまで呆然とされるとこちらがミスしたかと思うんですが」
「やかましい!」
高宮はやはり淑女なのか下品に笑ったりはしないが、口角が少し上がっているのを零は見つけて腹を立てている。
「まさか零くんがここまで驚くとはなー。意外性を通り越して、もはやバカだね!」
「サプライズ成功なら大人しく喜んどけ! 人をバカにすんな!」
大宮は零の意外な一面を見られたことに嬉しがっている様子で、とてもはしゃいでいる。
「……」
「おい雨宮。お前顔を隠そうとしてるけどバッチリ見えてんからな笑ってんの見えてるからな後で覚えとけよ」
「か、勘弁してください…ふっふふっ」
雨宮は完全に笑いのツボに入ってしまったようで、もはや目には涙がたまっている。
「…ていうか、普通は蝋燭の火を消してから電気つけるもんじゃないか?」
「そんなことしてたらいつまで経っても電気つけられないじゃないですか。ね? どこかのおマヌケさん?」
「おい高宮、誕生日だからってバカにしても大丈夫だと思ってるだろお前も後でとっちめるから覚悟しろよ」
高宮の言い分ももっともなので言い返せない零だったが。
「では零くん。何か一言お願いします」
「フリも雑だな…」
言葉とは裏腹に姿勢を正してしっかり喋ろうと零は4人の方を向いた。
「えーと、その…ありがとう。あんま誕生日とか祝われたことなかったから、その、まあ、ありがたい…です」
あまりにも感謝をいうのに慣れていないのかたどたどしく喋る零に、雨宮たちは真剣に耳を傾けていた。
「これからも、まあ、よろしく、ってことで」
零が羞恥心に耐えられなくなり目を逸らして強引に挨拶を締めくくると、雨宮たちは温かい笑顔で拍手をした。
「じゃあ、頂きましょうか。せっかくの料理が冷めてはもったいないですから」
雨宮の号令とともに、5人は料理に貪りついた。




