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77話 かえってきた零

「ったく…なんで俺がこんな目に…」

 12月に入り、底冷えするような寒さの中、勉強机に向かってせっせかと学校から出された課題をこなす男。


 目にかかるくらいの黒髪は少しばかりクセがあり爽やかさを覗かせる。


 顔立ちは整っていて、100人に聞けば100人はイケメンと答えるような男。


 そしてそのくせ、見た目だけではなく頭もよろしいようで、その頭脳は他の追随を許さない。


 それこそがこの男…入江零(いりえれい)なのである。


 ――とまあどっかのドキュメンタリー番組の冒頭のような紹介はさておき。


 およそ人外(あるいは人害)とも呼ぶべき驚異的なスペックを持っている彼であるが、その実、中身はただのオタクである。


 何が言いたいか、まどろっこしい前置きはもういいだろう。彼の気持ちを一言で表すなら、


「ゲームがしたい漫画が読みたいラノベが読みたいアニメ見たい見たい見たい見させてくれお願いします頼むから勘弁してくれもう嫌だ死んじゃう助けてくれ神様仏様ーっ!!!」


 ……一言で表せないみたいだ。


「仕方ありませんよ…学校に来れていなかったのですから…というか子供ですかっ!」


 そしてそれを咎める者もきちんといた。


 零と同じく黒髪、だがその髪はつやとはりがあって川のように美しく彼女の腰のあたりまで流れている。


 大和撫子というのが一番しっくりくる日本人固有の美しさを前面に出したようなその顔立ちには見る者の目を惹きつける魅力がある。


 そして反則的なことにその体のプロポーションも抜群で、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。身長は平均的だが姿勢とそのすらっとした体も相まって少し高く見える。


 雨宮京華(あめみやきょうか)。誰もが認める才媛にして、零たちが通う霞北学園において零に次ぐ二番手の席を守っている。


 そんな彼女が主席の零に対して呆れた顔をしているのは無理もない。


 努力家である彼女をもってしても勝てない零が、あまりにもだらしないからだ。


「そろそろ手を動かしたらどうですか。さっきから1ページも進んでいませんよ」

「こんなの難しすぎる…。やってられるかー!」

「はいはい、冗談はそこまでにしてさっさと解き終わってくださいね。こうして手伝いに来ている私の仕事がありませんから」


 雨宮がいる理由は、週明けの月曜に提出となっている課題を零が全くやっていないことを見かねたからだ。


 零の監視役と答え合わせの担当を受け持ったのだが、零が問題を全然解かないため雨宮は手元無沙汰になってしまっている。


「お待たせ―、差し入れ持ってきたよー!」


 とそこに、ピンク色のセミロングほどの髪をした女子が入ってきた。


 12月という寒い季節にもかかわらずデニムのショートパンツを履いており、そこからは艶めかしいほどスラっとした脚が伸びている。太ももの肉づきやふくらはぎの引き締まった筋肉は彼女がスポーツをしていることが分かる。


「遅かったですね、飛鳥。どこに行ってたんですか」


 彼女の名前は大宮飛鳥(おおみやあすか)。2年生でありながら陸上でインターハイを制覇している、正真正銘の運動オバケである。


 だが、その活発で本能的な生き方をしているであろう外見からは考えられないほど彼女も頭がよい。呑み込みが早いという感じで特に英語などでその力を存分に発揮する。


「いやー、ちょっと休んでたら遅くなっちゃった」


 ちなみに彼女も雨宮に負けず劣らずの美少女で、愛嬌もあり誰とでも仲良くなれることから雨宮よりもモテる。砕け散った男の数は年に100を越える。


「どう、零くん? 進んでる?」

「ああ、ばっちりだ」


 グッと親指を突き出す零に対して雨宮からハリセンが飛ぶ。


「嘘を吐かないでください。全然進んでないじゃないですか」

「ちっ」

「まあまあ京華ちゃんも落ち着いて、ゲームでもして楽しもー!」


 お、いいね、と零が椅子を反転させたところで雨宮からもう一度ハリセンをお見舞いされる。


「あらあら、仲良くやっていますね」


 次に入ってきたのは、雪のように真っ白なショートボブの女の子。


 彼女の一挙手一投足には気品が出ており、良家の出であることが瞬時にわかる。


 彼女は高宮玲奈(たかみやれいな)。日本の経済を担っている財閥の一つである高宮グループの一人娘。お嬢様である。


 だがその大人しい外見とは裏腹に、積極的かつ手段を選ばない性格と、高校生でありながら莫大な財産を築くほどのその頭脳が相まって、たびたび恐ろしいことをやっている。主に零に対して。


「零さん、やる気が出ないようでしたら無理に片づけなくても良いのですよ。私の方で手配しておきますから。もちろん、その代償はいただきますが♪」

「いけません玲奈さん。零くんが自力でやらなければ意味がありません。それに…何をするのかわかりませんがろくでもないことだということくらいは分かりますし」


 前科が多すぎるため、こうして雨宮達や零に警戒されているためまだ大事には至っていない。――時間の問題かもしれないが。


「ですが、零さんがやる方が意味がないのでは? それこそ沙彩さんにやってもらった方が良いと思いますが」

「それについては否定できません…」

「そりゃ~ひどいんじゃないかな~れーちゃん」


 と、どこで話を聞いていたのか分からないが、背の小さい子が入ってきた。


 青色の髪の毛は適当に束ねられていて、眠そうな顔をしているがその顔はハムスターなんかを想起させる愛らしさがある。


 実際に毛布にくるまってふかふかしているため、芋虫が直立二足歩行をしたような形になっている。


「これは…はは。さーちゃん、まだ寝起き?」

「う~ん、寝てたら私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた気がしたから」


 大宮の質問に対して恐ろしい答えを返す音宮。


 何が恐ろしいって、零の部屋と音宮の部屋との間には雨宮達の計3つの部屋があるということだ。


 これが霞北学園が生んだ芸術の天才、音宮沙彩(おとみやさあや)なのだ。


 あらゆる芸術において優れ、美術、音楽、書道といったあらゆる分野で数々の賞を手に入れてきた。


 時折、へたくそなロック曲を作ってくるあたりテロリストとも呼ばれるが、そのような創作に関する貪欲な姿勢が彼女を一流、いや超一流の芸術家たらしめているのだろう。


「沙彩も一緒に勉強しましょうね。あ、こら、零くん。どさくさに紛れて逃げない!」

「音宮、俺と一緒に逃げるぞ!」

「お~!」

「あ、待ってください。私も零さんと夜逃げしたいですわ」

「むむー! 先を越された! まてー!」

「いい加減にしてくださーい!」


 雨宮の雷が落ちて混戦状態になる零の部屋だった。


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