73話 零の奪還に向けて
「京華ちゃん…」「京華さん…」「京ちゃん…」
零の(美月の)家を出た後、自分の部屋に戻ってきた雨宮は…
「絶対に零くんを連れ戻してやる…。もう手加減なんてしない、お父さんにも零くんにも。二人まとめて叩き潰してやるくらい…!」
――ものすごく闘志を燃やしていた。これこそ鬼気迫る、と形容するべき、そんな状態になった。椅子に座って、机になにやら書き出している。
「京華ちゃーん? 趣旨変わってるんだけど…」
「飛鳥うるさい黙ってて」
「はい…」
いつもの敬語さえもなくなっていて、完全に自分の世界に入ってしまっているみたいだ。
「何よあの妹。ずっと零くんと一緒にいるからって調子に乗って…! 覚悟? そんなの今できたわよ。あなたを絶対に零くんから引き離してやる…。同棲なんて許されない許さない」
「京華さーん、キャラ変わってきてますよー。もっとおしとやかなキャラでこの話は進むはずですよー」
「れーちゃん、キャラの設定に触れちゃダメだよ~。っていうか妹と住んでること、同棲って言わないから~」
あれだけシリアスな展開から一転、ギャグみたいな描写になってしまった。
シリアス寄りにしていくとするなら、雨宮も零を取り戻すために手段を選ばなくなった、血の繋がりより心の繋がりを選んだ、みたいなことを書いておくべきか。
いまさらシリアスにするのはとても苦しいが。
「へこんでた京ちゃんが立ち直ってくれたのはよかったけどね~」
「これはさすがに想定外だよね…」
今まで傷心ぎみだった雨宮をなんとか奮い立たせてきた音宮と大宮だが、今の雨宮には若干引いている。
「こうなったら徹底的にお父さんのことを洗い出してやる。汚い部分全部洗い出して地にたたきつけてやる」
「京華さん、手伝いましょうか…?」
「お、ありがとう玲奈。あなたがいれば助かるわ」
「いえいえ。私としても、零さんの住む家に女がいるというのは気に入りませんから」
「だからそれ妹だって…」
「れーちゃんとしても、零っち大好きポジションは譲れないみたいだね~」
「誰が零くん大好きポジションだって?」
「ごめんなさい~」
キッと雨宮に睨まれた音宮は蛙のようにくたばってベッドに転がっている。
そんな雨宮の行為を見た大宮が呆れながらに言葉を漏らす。
「私も零くんが好きっていう役だったんだけどね…。完全に忘れ去られてるよね…というか京華ちゃんは零くんに恋をしていないっていう設定が崩れてなくてほっとしたよ」
「さっきからみんなメタ的な発言多いよ~。ここは小説の中じゃなくて現実なんだからね~」
「さっき沙彩さんも『ポジション』なんていうメタ的な発言をしてましたけどね」
完全に緩み切っているが、ここからどうやってシリアスな展開にもっていくのだろうか。
「よし、とりあえずの目標はお父さんのスキャンダルを5個は見つけること。毎日ありとあらゆるところに調査を入れて、絶対に見つけ出すから」
「あの…一週間後は文化祭なんだけど?」
「適当に元会長とか1年生を引っ張り出してやらせればいい。どうせ暇だろうから」
「もうこの回はこの性格でいくんだね…わかったよ」
大宮が半分諦めているが、雨宮の熱意は本物だ。
――文化祭なんてどうでもいい。最優先は零の奪還。
雨宮がそのように舵を切ったからには、もう彼女たち4人はとまらないだろう。彼女たちのフィアンセが帰ってくるまで…
「あのーわたしは別に零っちのこと好きじゃないんですけど~」
ナレーションを読むという反則的行為をした音宮は、出番を少なくしてやろう。
「ごめんなさい~」
何はともあれ、改めて零の奪還に向けて準備が始まった。




