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72話 雨宮が帰った後

 雨宮達が帰った後、家に残ったのはもちろん零と美月だけだった。


「兄さん…」

「すまんな美月、嫌な役回りをさせてしまったな」

「いえそれはいいのですが…」


 二人の間には、どこか重い空気が流れている。


 美月はベッドの上に座って零を見ていて、零はいろいろと考え事をしているのか、目を瞑って顔を上にあげている。


「兄さん…何を考えていますか」

「ん…色々とな」


 零は一つため息を吐いた。


「まさか実家の方が絡んでくるとは思いませんでしたね」

「それは本当に予想外だ。少なくとも高校生でいる間は関わらないと思っていたが…」

「クラスメイトさんから巻き込んでしまったのでは仕方ありませんね」


 雨宮に思いをぶつけたときに熱くなった頭はすっかり冷えたようで、美月は落ち着いた話しぶりに戻っている。


「呼び出しの件は…一体何でしょうね」

「さすがにそれは俺にも分からない。強いて話したいわけでもないだろうからとりあえずは保留にしよう。分からないことをあれこれ想像しても仕方ないからな」


 あの家が何を考えているかなんてわかったものじゃない。イレギュラーな考え方をしていなければこんな家にはならない。


「ですが兄さん、雨宮さんたちの用件に対してかなり慎重でしたね。最初に話を聞いた時にはてっきり協力、尽力するのではないかと思ったのですが」

「…単純に自信がないだけだよ」

「そうでしょうか…? どうにも私にはおととしのことを気にしているように思えたのですが」

「……」

「あの時にも言いましたが、あれは兄さんのせいではないですし、私は兄さんに救われたのです。決して責めたりなんかしませんよ」


 おととしのこと。つまりは美月がいじめられていたあの事件。


 あの事件を終わらせた零が最初に感じたのは後悔と不安だった。


 この事件の決着についてはまた詳しく記すことになるだろうが、別に大したことではない。


 ――ただ(あに)が暴走しただけだ。


「まあ単純に、優しい兄さんが愛しいクラスメイトの肉親を傷つけられなかっただけ、ということにしておきましょう」

「それはさすがに語弊があるな」


 笑ってこれ以上は詮索しないという意思を示す美月に、よくできた妹だと驚かされる。


「…兄さん。困ったときはいつでも私に言ってくださいね。力になれるかは分かりませんが、できる限りのことはしますよ」

「やっぱり俺にはできすぎた妹だな」

「じゃあご褒美ということで、一緒にお風呂に入りましょう!」

「やめろさすがに耐えられない。俺の身にもなってくれ」

「それは心も体も繋がりたいということですか…? それは…少し恥ずかしいです…」

「とんでもない勘違いをするんじゃねえよ!」


 さすがに兄妹の恋愛は認められない零であった。


 そして結局、久しぶりに一緒にお風呂に入った零であった。何もやましいことはしていないけど。

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