69話 兄妹の空間に
日曜日。文化祭まであと1週間と少しとなった日曜日。
零はなんと…ゴロゴロしていた。
「うーん、やっぱこのイラストレーターさん良いよな~。どのキャラもかわいいし…推しが決まらん…」
「兄さん、そろそろ腹が立ってきたのでこの部屋にあるライトノベルの類、全て捨ててしまっていいですか?」
「美月…それはいくら何でも酷すぎるだろう」
「大丈夫です。ちゃんと資源回収の方に集めてもらいますから」
「俺は本が捨てられた後のことを気にしてるんじゃないわ!」
思わず零は自分の部屋(美月と共用)を美月から守る。
対する美月は全く屈託のない笑みを浮かべながらビニール紐とはさみを準備している。
「あ、そういえば兄さんの携帯電話に発信機が付いていたのですが、心当たりはありますか? 電源が切れていたので多分大丈夫だとは思いますが…」
「何故お前が俺の携帯電話に発信機が付いていたことに気が付いたかは触れないでおこう。そして恐ろしいことに心当たりはある」
十中八九、高宮が付けたものだろうと零は思っている。
(だけど、俺が気付かないってことは内部に小型のものを仕掛けられたか? そしてそのことに気が付くのは同じことを考え…いややめよう。妹をストーカーみたいに考えるのは)
高宮をストーカーだと考えることには一切の躊躇を覚えないが、さすがに血のつながった妹がストーカーだと考えるのには抵抗がある。
――ピンポーン
「宅配便か何かが来たんですかね。ちょっと行ってきます」
「悪いな、ありがとう」
テテテと美月が玄関の方に向かって駆けていく。零は大人しく布団に寝転がって本の続きを読み始めた。
するとまもなく玄関の方から声が聞こえた。
「ちょっと誰ですか!?」
「零くんのクラスメイトだよー!」
(…? クラスメイト…? それにこの声…)
気になって零も玄関の方に顔を出してみる。
そしてそこには零のよく知っている顔があった。
「あ、零くんだー!」
「お、大宮!? なんでお前がこんなとこに!?」
「私もいますよ」
「高宮まで!?」
「零っちひさしぶり~」
「音宮もいるのか…」
「……」
「そしてやっぱり雨宮もいる、と」
玄関の前に並んでいたのは紛れもなく雨宮達だった。
大宮や高宮、音宮は笑顔でこっちを見ているが、雨宮だけ俯いている。
「兄さん、知り合いですか?」
「ああ、そいつらは俺のクラスメイトだな」
「…」
零の言葉を聞いた後、美月は雨宮達と零を交互に見てため息を吐いた。
「色々と兄さんに聞きたいことがあります。後でじっくりお話をしましょう」
「なんで俺が説教されそうになっているのかわからないんだが…」
雨宮達を家に上げた後、零は彼女たちを自分の部屋に案内した。ダイニングでは椅子が足りなかったからだ。
美月がお茶をコップに入れて持ってきて全員が座ったところで零が口を開いた。
「一体お前たちは何をしに来たんだ?」
「零くんに会いに来たんだよー!」
元気よく答えたのは大宮。
「いやだから何故会いに来たのか聞いてるんだが…」
「零くんに会うことが目的みたいなものだったの!」
何か上手く話が噛み合っていない気がしたので、零は話を変えることにした。
「どうして俺がここに居るって分かったんだ?」
「「「「…」」」」
一斉に目を逸らす。零は手っ取り早く知るために一番楽な方法を選んだ。
「音宮、教えてくれ」
自分の名前を呼ばれてぴくっとする音宮。
「いや~その~あはは」
「それが答えだと言うのなら今すぐこの家から出て行ってもらうが」
「きゃ~すみませんすみません」
「よし、洗いざらい全部話せ」
零が音宮の目をじーっと見て聞く体制になっている。
「その~言いにくいんだけど~」
「おう」
「――零くんの実家に行ってきました」
だが零の質問に答えたのは、さっきまで俯いていた雨宮だった。
「「え?」」
だがその回答に驚いたのは零だけでなく美月もだった。
「おい、ちゃんと説明してくれ」
「わかりました、きちんと説明します」
そしてそこから雨宮は前の日にあった出来事を順に話し始めた。




