67話 放課後の会議
「そうか~、そういうことだったんだね」
放課後、雨宮達は三日月先生を連れて3階の空き教室に来ていた。
雨宮が零の件について今回あったことを時系列に沿って話すと三日月先生ははーっと納得したようにうなずいている。
「どうしたらいいと思う~? 紅葉ちゃん?」
もうすっかり自分で考えることを諦めた音宮が三日月先生に尋ねる。
「すごいため口なのはこの際ツッコまないことにして…そうだねえ。かなりややこしくなっちゃったわけだ」
「先生は、この先どうしたらいいと思いますか…?」
「難しいね~。零ちゃんの気持ちも分からないし」
今の状況を整理すると、問題になっているのは二つ。
一つは零を遠ざけた相手が、雨宮礼二というとてつもない権力の持ち主だということ。
二つ目は零自身がこの学校、このクラスに戻りたいと思っているのか不明であること。
どちらも無視しえないことなので、この二つは棚に上げておくことはできず、きっちり解決しなければならない。
「ひとまず零ちゃんとコンタクトが取れるといいんだけど」
「それが、零くんがどこに行ったのかもわからないし、携帯も繋がらないんだよね」
実際に昨日4人がいる中で電話をかけてみたが、繋がらなかった。
「電話が繋がらないのは不思議だなあ。あっちが繋がらないようにしてるのか、それとも京華さんのお父さんが何かしら関わっているのか」
三日月先生はその幼い外見に反して、頭がよく回る。今みたいに状況を整理することも得意だし、解決案を提案するのも得意だ。事実、雨宮達という超がつくほど優秀な生徒たちから頼られている。
「電話が繋がらないとなると、やっぱり打つ手なし、ですかね…」
高宮が悲嘆を含んだ小さな声で呟く。
「いや、そうでもないんじゃない?」
だがここで三日月先生は意外にもポジティブな発言をした。
「いやでも私たちにできることなんて…」
別に高宮は諦めたいわけではない。諦めなければいけないと冷静に分析しているだけだ。
だが三日月先生はニカっと笑って言う。
「だったら零ちゃんの家を探せばいいでしょ?」
「「「「…はい?」」」」
「いや、ですから連絡が取れないと言っているじゃないですか」
さっきまで話していたことは何だったんだと、呆れを孕んだトーンで返す。
「連絡取れないだけじゃない。それだけで何でそこまで悲観的になっているの?」
三日月先生に言われて4人ははっとした。
零が離れてしまった上に雨宮礼二なんて大物が出てきたこともあって、彼女たちの思考はどこか諦めを前提としたものだった。どうせ無理だと視界を狭めていた。
だが、零との関りが希薄だったからかもしれないし、三日月先生の方が雨宮達の能力を正しく理解していたからかもしれないし、ただ単に彼女が大人だからかもしれないが、三日月先生は雨宮達より真摯にこの問題と向き合っていた。この場合は純粋に、というべきかもしれない。
「ここに集まっている貴方たちはただの高校生じゃないわよね? 何を諦めているのかしら?」
4人は何か恥ずかしさのようなものを感じた。自分たちの方が先に零のことを諦めてしまっていたことに。
彼女たちの顔に生気が戻ってくる。
「そうだね! 私たちに不可能なんてなかったはず!」
「三日月先生に気付かされるなんて恥ですわね…」
「よ~し、頑張っちゃうぞ~」
「何としても取り戻しましょう!」
三日月先生は「えっ…私どう思われてたの…?」と不服ながらも、Sクラスの中で教師らしいことが出来たことに、陰で満足していた。




