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66話 零のいない学校

「これからどうすればいいのでしょう…」


 あれから、一度持ち帰っていろいろと考えてみましょうという高宮の提案により、一度解散してそれぞれ自分の部屋に戻った。


 だが雨宮の思考は全く進まない。


 神宮家の真実。


 それは短いが歴史を伴っているため、一市民に過ぎない自分には何も出来ないのではないかと考えてしまう。


 それに零についても。


 父が、零について良く知っていたから自分から遠ざけたのか、それとも神宮というだけで遠ざけたのかは分からない。


 だが分かること、分かってしまうことはある。


 それは、雨宮礼二という男は零と自分が関係を持つことを絶対に認めないということだ。


 ――今日はもう考えるのはやめよう。これ以上考えても考えられない。


 そう思って雨宮は床についたが、眠ることはできなかった。



 次の日、零が居なくなったというだけで学校を休むことはできず、雨宮は学校に行った。


 それは大宮、高宮、音宮も同じだったようで揃って出席することになった。


 教室で顔を合わせると、皆が皆どうように寝付けなかった様子で目の下に隈を作っていた。


「何かあれから思い付いた…?」

「ダメだった~…。上手く考えることもできなかったよ…」

「同じく、です」


 どうやら考えがはかどらなかった所まで同じらしい。


 不意に大宮が呟く。


「零くんのいない教室かー…」


 半年前まではそれが当たり前だったのに。


 何故こうも物足りなさを覚えるのだろうか。


 頻繁に会話をしていたわけではないのに。


 どうして寂しさを感じてしまうのだろうか。


 各々俯いてしまう。


 そこに、怒りを露わにして入ってくる人が一人いた。


 三日月先生だ。足音が荒く、それぞれの所作に力が入っている。


「信じられない! 急に零ちゃんが転校になるなんて聞いてないわよ…!」

「どうしたんですか…?」

「急に今日の朝、零ちゃんが学校をやめるって校長から言われたんです!」


 どうやら三日月先生の方には、今日の朝になって連絡があったらしい。


「私が知ってたらこんなこと許さなかったのに…!」


 これに関しては、零の意志ではないし雨宮礼二という大物政治家が出てきているので三日月先生には何もできない気がする。


「――あーっはっは」


 とそこで教室に嫌な笑い声が聞こえ、思わず雨宮達だけでなく三日月先生でさえたじろいでしまう。


「花田勝、Sクラスに無事帰還!!」


 高らかに両手を上げている。眼鏡は心なしか輝いているが気のせいだろう。


「ふっはっは、偽物にこのクラスは早かったのだー!」


 だがこの言葉には、さっきまで引いていた雨宮達も聞き逃せなかった。


「結局カンニングをするような奴にはこのクラスはふさわしくないのだ!!」

「何ですって」


 零への冒涜に耐えられず手を出したのは意外にも雨宮だった。


 雨宮は花田の首根っこを掴む。女子である雨宮の方が力が強いようで、花田は掴まれながらじりじりと扉の方へ後ずさりしていく。


「ちょっ! 京華ちゃん!」

「訂正してください。今の言葉を、すぐに!」

「京ちゃん、落ち着いて!」

「早く! 言い直して!!」

「わ、わかった! あ、あやまる、から!」


 そこでようやく雨宮は手を離したが興奮は冷めない様子だ。


「京華さん、少し落ち着いてください」


 ここで、高宮が顔を見せることで雨宮もだんだん呼吸が落ち着いてきた。


「いいじゃありませんか。零さんのことは私たちが理解しているだけで」


 だんだんと冷静さを取り戻してきた雨宮は、大宮、音宮の顔を見てふーっと一息を吐く。


「すみません。私としたことが…」

「いいんだよ京華ちゃん! ちょっと私も耐えかねてたところだったし、ね」

「さすがにあれだけ言われちゃわたしも許せないな~」


 そう言って二人は花田をキッと睨む。花田は「ひっ」とだけ言って廊下を出て行った。


「零ちゃんのことはみんな動揺してるから、いったん落ち着いてホームルームにしようか~。かく言う私もかなり熱くなっちゃってたんだけどね…」


 まわりに自分よりも怒っている存在を認めて三日月先生は大人らしい落ち着きを取り戻していた。


「じゃあ席に着いてね。花田君も多分授業には戻ってくるから」


 三日月先生の号令で席に戻る途中、雨宮はなぜ自分が我を忘れてしまうほど怒ってしまったのか、その理由について考えていた。

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